死者は必ず一度聖なるガンジス河にじっくりと浸してから
火をつけられるので、白い灰になるまでに相当時間がかかります。
その間家族は荼毘の周りで祈り続けるのです。白い砂地に見えたのは

数千年に及ぶ死者の灰の集積だったのです。インドの人々は親しみを
こめてガンジス河のことをガンガと呼びます。家族は灰をこのガンガ
に流します。ボートから流れに手を入れてすくってみました。白い粉

が確かに手のひらに残ります。上流まで何箇所もこういう場所がある
のです。きっとこの深いとうとうと流れるガンガの底は、無数の骨と
白い灰とで幾層にも重なっていることでしょう。

ベナレスの町には全国から死者が担ぎこまれてきます。白い布に包ま
れて、色とりどりの花に飾られて、家族総出で担いできます。

ここには、死を待つ人々の無料の館があちこちにあります。死を覚った
老人や不治の病の人たちが家族のもの何人かと数年暮らすのです。
ある晩裏通りに迷い込んだことがありました。何かの祭りの夜でした。

京都の地蔵盆のような子どもの祭りです。じっと見とれていたら、僕の
脇にとても美しい少女が立っていました。黒髪で小麦色の肌、瞳が大き
く澄んでいてびっくりしました。杏子さんにそっくりでした。みんなと

遊ばないのと目で示したら、アチャとか言って可愛く首をかしげるのです。