まぶたの裏に浮かんだのは、
ある女の顔。
愛しい、愛しい、
この世でたったひとり。
『悪魔食い』の異名を持った僕を愛してくれた人。
僕は、一度つかんだその手を離した。
幸せになってほしくて。
それが彼女の幸せだと、自分に言い聞かせて。
「思いださせるなや、ボケが……っ!」
座ったまま、傍にあったテーブルを蹴飛ばした。
テーブルは倒れず、上に置いてあった灰皿だけが床に落ちた。
カラン、と力のない音がする。
瑛はそれを拾わず、椅子に腰掛けなおした。
「長い話になりそうだな」
「…………」
「寒いから、中で聞こう。
ほら……」
肩を叩かれ、僕は思わず部屋の中を見た。



