12月だと言うのに黄海は穏やかだった。
ゆるい消え入りそうな夕日が
静かに沈んでいく。

本庄浩一は12月になると雑貨の材料を
仕入れに大阪から上海に船で行く。

京都の嵐山で小さな土産品店を営む本庄は
幸いこの時期日程にゆとりがあるので

ゆっくりと船旅が満喫できるのだ。
1年の中で最も癒される2週間である。

旅の荷物は着替えとスケッチブックを1冊
持っていくだけだが、帰りはかさばりはし
ないがずしりと重い銀鎖4千本を背負う。

この時期の国際フェリーは乗客は少ない。
若者もいるが年配者が多いのは船旅ならでは
と思う。何人かの友人ができるのも楽しみだ。

スケッチは数年前から始めた。
鉛筆でラフスケッチをしてあとで
水彩を施すものだ。

船旅の時は必ずスケッチブックを持っていって
各地の風景をいくつか描いて帰る。

写真も撮りはするが写真から描いても
いい絵はできない。

現場ですばやくスケッチしたものにこそ
タッチに活力がある。

地元で趣味の会に誘われて入会はしたが
まだ1度も出品をしたことがない。

皆それなりにうまいのだ。本庄の
ラフ画など物の数ではない。

30人ほどの小さな会だが年に1回
作品展をやる。本庄は義理で毎年
顔出しだけは欠かしたことがない。