偽物の国のアリス



「・・・」


『私は、私は、』


あんなに、死にたい程辛かったんだ。


忘れるわけがなにのに。


頭から、記憶から、意図的にその記憶だけが消されてしまったみたいに思い出せない。


思い出したいけど、思い出したくない。


ズキン、ズキンと心拍と同じテンポで頭が痛む。





頭を押さえて痛みに耐えていると、ぽん、と何かが頭を撫でた。


「ごめんね。もういいよ、思い出そうとしなくて」


私と目が合う位置まで屈んだ少年が、子供をあやすように私の頭をぽんぽんと叩く。


その時、何故だか分からないけどゆっくりと痛みが引いていった。


そっと上を見上げてみると、表情の和らいだ少年が、申し訳なさそうに私を見ていた。


『でも、私、思い出せない』


「いいんだよ、それで。ここは、そういう所だ」


『・・・』


「無理に言わせようとした僕がいけないんだ。ごめんね」