いきなり聞こえてきた声に驚いて、バッと声がした方に振り向く。


木陰に隠れてよく顔は見えないけど、白いシャツにチェック柄のベストを着て、首からキラキラしたものをかけている。


『だ、誰!?』


気配すら感じなかったから余計に吃驚して大きな声を出してしまう。


「誰でもいいよ。所詮、名前は固有名詞でしかなくて、外見は記号なんだから」


声からして青年、いや、まだ幼さの残る声だ。


一歩。


少年が歩み寄る。


また一歩。


近づいて来るにつれ、少年の顔がはっきりと映る。





顔の上半が隠れる、気味の悪いウサギの仮面をかぶった目の前の少年。


白をベースとしたそれに、2本の耳、濁った赤い目が付いている。


子供とは思えない程、趣味の悪い仮面だ。


少年は口元をにやりとつり上げ嗤いながら私の方へゆっくりと歩く。


「まだ答えてもらってないよ。君は、幸せになりたいの?」


顔を近づけて咎めるように耳元で囁く。


なにを、言っているの。


なりたいに決まってる。


『あ、当たり前でしょ』


私は出来るだけ感情を表に出さないように言った。


すると少年は顔を離し、さっきまでの笑顔が嘘みたいに無表情になった。