部屋に入ったら、いきなり薔薇の入った花瓶が誰かの手によって飛ばされてきた。
それをひょいとよけた白兎は何処からどう見ても手慣れていた。
まぁ、ここは”女王様の部屋”だから誰が投げたか何て愚問だけど、一応私は投げた人の方へ視線を向ける。
どう見ても年下にしか見えないあどけなさの残った顔つきの少女が、頭に血色のルビーのはまったティアラを乗せて優雅に王座らしき椅子に座っていた。
・・・手元にあるナイフには気付かない振りをしていよう。
「遅い!30分の遅刻よ!このあたしを待たせるなんてなんたる無礼者!首をはねるわよ!」
見た目からは到底信じられないほどの大音量で白兎に怒鳴りつけた。
相当お怒りのようだ、などと客観的に見ていると、何故か怒りの矛先が私に向いた。
「そこのあなたも、女王を前にして挨拶もないの!?」
ばっと鬼の様な形相をして、大型のナイフを片手にずかずかと歩み寄る。
「あああ、女王様、その子は・・・」
「首をはねてあげるわ!」
え?と思った瞬間、勢いよくナイフが振り上げられて、デジャヴを感じながらも目を瞑った。
カキン
金属の刃と刃が当たる音がして、恐る恐る目を開ける。
そこには鋏の形をしたもので女王様のナイフを防ぐ白兎がいた。
仮面の赤い目はぎらついているけど、彼の表情からは呆れが伝わってくる。
「女王様が短気なのは前々から知ってますけど、話くらい聞いてくださいよ」
「うるさい!口答えするなら一番に貴方の首をはねるわ!」
「まぁいいから聞いてくださいって。これは、アリスですよ」
「・・・えっ?」
驚いた顔の女王様が、バツが悪そうに振り向いた。


