偽物の国のアリス



『うっ・・・』


立ったまま痛みに耐える。


名前を、言おうとしただけなのに。


耳元の血流の音がうるさくて、考えるのがきつい。


「君は、」


私より若干背の低い白兎の白い手が、また頭を撫でながら言った。


やっぱり、痛みは引いていく。


「君は、アリス」


仮面の両目が私を捕らえ、濁った赤に私が映る。


『アリス・・・』


聞いたことなんてないし、自分の名前じゃないと思うのに、すーっと馴染む。


例えるなら、ゲームをリセットさせて主人公を変えた、かな。





まぁ———いいか。


きっと”この世界”では気にも留めることないほど、これが普通なんだろう。


とりあえず、名前は分かったから。


でも———


『ねぇ白兎、聞いてもいい?』


「答えられるものなら」


私は一拍置いて言った。


『ここは、何処?』


その質問に白兎はきょとんという顔を見せて、あぁ、と思い出したように頷いた。


「言ってなかったね。ここは不思議の国。ワンダーランドって呼ばれてるよ」