思い出すのは、
彼女の香り。



苦くて、やわらかいそれは、
俺を戸惑わせて、
酔わせ、
虜にさせた。








いつものように、おばさんが下の階から叫んで子供たちを起こす。




今年から中1になる末の弟と、
同じく今年から高1になる真ん中の弟が、
緊張と期待で活気に満ちているのがわかった。



俺も下に行って、

おばさんとおじさんに挨拶して、

用意されていたブラックコーヒーを飲む。





昔は、コーヒーなんて飲まなかった。



中2までは。







この家に来て、もうすぐで4年がたつ。

今年、俺は高3になる。
とうとう、智人も第2の受験シーズンを迎えたな、と、
見ていた新聞のスポーツ欄から目を離さずに、おじさんが言った。

うん、と、
短く返事をして、学校の準備をしに席を立った。





部屋に戻って、
ほうっ、と息をつくと、

ふわり、
と、少しだけ彼女の香りがした。