私には、妹が二人いる。

そして、姉弟同然に育った男の子が4人。

近所に住む大工の息子2人と、花屋の息子2人。

仲のいい大家族のように、私たちは育った。


ある、湿っぽい暑さが続いた夏、
彼は静かに、その中に侵入してきた。

そして私だけが、その侵入者を侵入者と気づかなかった。


気づいたのは、高校1年の春。


まだ硬い制服を、無造作に着る私。

くたびれた学ランの前ボタンを無理やりしめる、彼。

去年と同じ様に、3つの家族が並んで写真を撮った、つもりだった。





アルバムに新しい写真を入れるときに、

去年の写真に彼がいないことに気づいた。













坂井智人は、
花屋の、坂井のおじさんに、養子として引き取られてきた。



私の一つ下ではあるが、他の[弟]たちと違って、
智人は私にとって、[彼]、だった。






あの甘い匂いを放っていた。






それは私を優しく包んで、でも決して離さない。





妹たちも、
坂井のおじさんや男の子たちさえも、気づかない。





あの甘い、むせるような、空気を放っていた。







私だけに。