思い出すのは、
彼の空気。


あの甘ったるいものは
私を酔わせる。

そして不思議に自分と一体化する。







都会の喧騒に圧倒されながら、

次々に目に映る冷たい塊のような建物を、何一つ見逃さないように、

睨みつけていた。



平たい田畑ばかりを見てきた私は、
何とも言えない圧迫感を感じた。



大好きなレトロな洋服、靴、カバン・・・


こっちに来て仲良くなった光子に、勧められるがままに手に取ってみてみる。


そのたびに声をかけてくるお姉さんの、
化粧品の粉っぽい匂いに次第に嫌気がさして、
早めに買い物を切り上げて光子と別れた。











私、林千影はこの春、
遠い雪国から、
名古屋という都会にある大学に入学した。


あまり人見知りをしない私は、すぐに友達ができた。

初めて会う子たちには、
聞いたことのない変わったなまりがあって。

親しみやすいな。

と思うのだけれど、
出身地を言うと必ず困った質問が返ってくる。



「なんで、わざわざ名古屋に?」



この質問には毎回困って、
でもできるだけ心の乱れに気づかれないように、おどけた声で

「なんとなく〜♪」

と返すようにしていた。