柔らかい湯気が睫に掛る。

湯船に浸かった体は大部暖かくなっていた。

手の平を顔の前に持っていく。

それを、見つめる。


(な、何やってんだろ。これじゃまるで恋する乙……ストップ!はい、ストップ!!)


延の脳内の突っ込みは幾分か鈍い。





「大丈夫ですか?寒くありませんか?」
「……」
「あの、延さん……?」
「……暑苦しい」
「そ、そんな」


会話自体は前と大差無かった。

しかし、二人の間では決定的な何かが変わっていた。

延は、思っていた。

こんな日常を重ねて、いつか、当たり前になる。

それが、今の彼女が望むかたちだった。

ただ、それが、叶わないことを彼女はまだ知らなかった。


「呑気にイチャついてる場合じゃないんだけどなぁ」


お節介な神様だけが、ほんの少し先を見据えていた。