恋は,もっと,違うものだと思っていた。 夢は見ない。 けれど。 それでも,もっと,甘く痺れるような。 少なくとも,こんなに苛々したり,自分が嫌になったりなんかしないものだと,思っていた。 「延さん!」 俯きながら思案に沈んでいると,不意に自分を呼ぶ声がした。 (加えて幻覚まで……あれ?私もとうとう不思議世界の住人に……?) 「延さん!何,してるんですか?具合悪いんですか?」 (煩いなぁ……鞄ぶつけたい……)