やはり,ガーゼ素材は堪らない。

 よく肌に馴染む。

 また,その柔らかさは,布団と一緒に過ごしてきた月日に比例する。

 家事を中々しない延だったが,布団を洗濯し,干すのはお手の物だった。

 生地を痛めず,長く使える様に大切に洗い,丁寧に干す。

 そうすると,太陽の光を一杯に浴びたふっくらとした仕上がりになる。

 丁度,この匂いの様に。

 この布団は,何だか内側にたっぷりと温もりが含まれている気がする。

 ジリ……と目覚ましがワンフレーズ鳴ったところで,延は目を覚ました。

(やっぱり……夢だったんだ……だって,ちゃんと,布団……あるし……)

 延は,安心しつつ,上体だけ起こそうとした。



 しかし,それは二本の腕に阻まれていた。



(……はい……?)


よく見ると,例の男が自分を後ろから抱きしめながら寝ていた。



「は……は……放しなさーいっ!!!!」



 延は目覚ましよりも大きな音量で叫んだ。


 どうやら,これは,この男は夢の産物ではないらしい。

 延は,その日も母親にもれなく小言を貰うこととなった。


(とりあえず……躾からだわ……)

 延は,暗くなりそうな視界の中で,“待て”を覚えさせるか“ハウス”を覚えさせるか迷っていた。