Secret Lover's Night 【連載版】

「失礼します。ごめんハル、ちょっとええ?」
「え?あぁ。ちょっと…すみません」
「あっ、どうぞどうぞ」

チラリと腕時計を見遣ると、撮影にはまだ早い時間で。不審に思いながらそこを出てパタリと扉を閉めると、恵介が不安げに顔を顰めた。

「今来てる人ってな、もしかしてちーちゃん探してるって人?」
「何や…何でお前そんなこと知ってんねん」
「いや、来がけに社長から電話あってな?そうゆう変な男が来るかもしれんから気ぃつけろって」
「遅いわ、阿呆めが!」

バシンと一発くれてやると、「だってお前電話出んかったんやろ!?」と恵介が抗議する。

確かに、携帯はデスクに置きっぱなしにしてある。

「まぁええ。お前も来い」
「はっ!?何で俺!?」
「メーシーもおるから来い!」

強引に腕を引き、よろける恵介を会議室へと引き摺りこむ。そして、強引に連れ込んだ恵介を乱暴に椅子に座らせ、晴人は立ったまま吉村をじっと見据える。

当の吉村は、何やら携帯の画面を見せながらメーシーと話し込んでいた。

「わー。こりゃ可愛いわ」
「でしょ?ほんま…目ん中に入れても痛くないくらい可愛い娘なんですわ」

覗き込むと、そこには今より随分と幼い頃の千彩の姿が映されていて。不機嫌に眉根を寄せ、晴人は乱暴に腰掛けた。

「おかえり、王子。おや?」
「あぁ…何か連れ込まれて。あはは」
「そちらさんは?」
「これはね、うちのスタイリストです。ケイ坊、こちらは姫のお父様」
「姫って…え?ちーちゃんの!?」
「こちらさんも千彩を知ってはるんですか?」
「ええ。僕よりこっちの方がよく知ってますよ。まぁ、一番よく知ってるのは、そこの…ハルですけどね。話してあげたら?王子」

にっこりと微笑むメーシーが、何だかとても憎らしくて。ギュッと眉根を寄せ直し、晴人はふーっと息を吐いた。

「ハルさん、お願いしますわ。せめて話だけでも聞かせて下さい。千彩は今どないしてるんですか?どこに居るんですか?元気にしてますか?」
「ほら、王子。意地張ってないでさ」
「別に意地張ってるわけちゃうわ」
「じゃあ何?あっ、盗られちゃうとか思ってる?」
「そんなやないって!」
「お父さん、姫のこと心配してるんだからさ」
「お父さんって…ほんまにちーちゃんのお父さんなんですか?」

恵介がそう改めて尋ねたのには理由がある。

一度千彩と二人で話をした時に、父親の話は一度も出なかった。母親に捨てられ、お兄様とやらにこっちへ連れて来られたと言っていた。父親がいたならば、そのお兄様とやらがこっちへ連れて来ることを阻止出来たはずだ。


「お父さんいてはるのに、何でちーちゃんは独りぼっちでこっちにおったんですか?」


揃って不信感を隠そうともしない二人に、メーシーは苦笑いを零す。何てバカ正直な奴らなんだろう、と。