Secret Lover's Night 【連載版】

突然の乱入者が騒ぐだけ騒いで去り、店内が漸く落ち着きを取り戻したのが、空が茜色から藍色に変わる頃。
オフホワイトのロールカーテンを彩る絶妙なコントラストに、玲子はふぅっと大きく息を吐いてカウンターに頬杖をついた。

「ごめんな、悠真が余計なことするから」

智人としては、悠真の「余計なこと」は非常に不本意な結果になった。
千彩を玲子に紹介するのは、結婚して暫く経ってからでいい。その時は、晴人からではなく自分から紹介してやろう。そう思っていただけに、晴人から電話があったと玲子に聞いた時は腹立たしくて仕方がなかった。

「ゆうちゃんがいらんことすんのなんか、今に始まったことちゃうやん。気にしてへんわ」

頼りない笑顔に思わず手を伸ばしかけたものの、その後の動作が頭の中で浮かばず、中途半端な思いを抱いたままガシガシと頭を掻いた。

「えらい可愛がっとるみたいやん?」
「え?」
「そりゃそうかー。あんな可愛らしい子やったら、さすがのともちゃんもメロメロか」
「いや、そうゆうわけじゃ…」

千彩に対しては、誰に何と言われようが「妹として」を貫くつもりでいる。
妹として可愛く思っているのも、家族として支えてやりたいと思っているのも嘘ではない。
ただ、「本当にそれだけか?」と問われた時に瞬時に首を縦に振る自信は無い。

結局のところ、智人自身にもよくわからないのだ。

「あいつちょっと…病気でな。もうだいぶええんやけど、酷かった時に俺が面倒見とったから、変に懐いてもて」
「ともちゃんが?へぇー」

そう言われたとて、玲子にはとてもではないけれど信じ難い。
三木家の面々が思っているように、玲子にとっても智人は「自由気まま、ワガママ放題の次男坊」なのだ。