気が済んだ千彩が晴人の腕の中へ戻ると、今度は智人が不満げで。色々と掘り返して尋ねるよりも諦めてしまう方が早い気がして、玲子は黙ってコーヒーカップを並べた。
「悪かったな、急に押しかけて」
「可愛い彼女を見せびらかしにきたんか?」
「ちゃうわ」
久しぶりに見る晴人は、あの頃よりも随分と活き活きした表情で笑っている。思わず胸が高鳴って慌てて逸らした玲子の視線を戻したのは、千彩の一言だった。
「あっ!ともとの好きなレイちゃんって、玲子さんのこと?」
はぁっ!?と大きく反応する智人を「ねー、ねー」と千彩が追い回す。何やってんだか…と呆れた玲子は、千彩の言葉の意味を理解していなかった。
「もう!やめろや!離せ!」
「えー?なんでー?ちさ、嘘吐いてないよ?」
「ええから!もう!」
グイッと頭を押し返され、それでも智人に抱きつこうとする千彩。そんな姿を見て「子供みたい」と笑う玲子に、晴人も釣られて笑った。
「俺、アイツと結婚するんやわ」
「うん。さっき本人から聞いた。『私は三木 晴人の婚約者です』って」
「あー…あはは」
何も自分で名乗りに行かなくても紹介するのに。と思う反面、そんな立派なことが言えるようになったのか…と、千彩の成長ぶりを嬉しく思う自分もいる。複雑な思いの中零した晴人の苦笑いは、楽しげに智人を追いかけ回していた千彩の目にはとても切なげに映った。
「おねーさん」
「え?」
「はるに悲しい顔させないで。はるは、ちさと一緒に『幸せ』守るの。はるは…ちさの晴人なんやから」
子供の独占欲。
あっさりとそう思えてしまえば、楽だったかもしれない。
自分と晴人の間に立ち庇うように両手を広げる千彩は、自分よりも随分と年下で、にもかかわらず未来を約束されているばずで。過去の存在である自分のことなど「ふんっ」と鼻で笑ってしまえば良いはずなのに。
目の前の少女は、ギュッと唇を引き結んで、真っ直ぐで力強い目を向けている。
その瞳には、ただただ真っ直ぐに自分の姿しか映っていなくて。
嫉妬だの独占欲だの、女の醜い部分が一切見えない千彩を前に、玲子は「うん。わかってるよ」と一言返すのが精一杯だった。
「悪かったな、急に押しかけて」
「可愛い彼女を見せびらかしにきたんか?」
「ちゃうわ」
久しぶりに見る晴人は、あの頃よりも随分と活き活きした表情で笑っている。思わず胸が高鳴って慌てて逸らした玲子の視線を戻したのは、千彩の一言だった。
「あっ!ともとの好きなレイちゃんって、玲子さんのこと?」
はぁっ!?と大きく反応する智人を「ねー、ねー」と千彩が追い回す。何やってんだか…と呆れた玲子は、千彩の言葉の意味を理解していなかった。
「もう!やめろや!離せ!」
「えー?なんでー?ちさ、嘘吐いてないよ?」
「ええから!もう!」
グイッと頭を押し返され、それでも智人に抱きつこうとする千彩。そんな姿を見て「子供みたい」と笑う玲子に、晴人も釣られて笑った。
「俺、アイツと結婚するんやわ」
「うん。さっき本人から聞いた。『私は三木 晴人の婚約者です』って」
「あー…あはは」
何も自分で名乗りに行かなくても紹介するのに。と思う反面、そんな立派なことが言えるようになったのか…と、千彩の成長ぶりを嬉しく思う自分もいる。複雑な思いの中零した晴人の苦笑いは、楽しげに智人を追いかけ回していた千彩の目にはとても切なげに映った。
「おねーさん」
「え?」
「はるに悲しい顔させないで。はるは、ちさと一緒に『幸せ』守るの。はるは…ちさの晴人なんやから」
子供の独占欲。
あっさりとそう思えてしまえば、楽だったかもしれない。
自分と晴人の間に立ち庇うように両手を広げる千彩は、自分よりも随分と年下で、にもかかわらず未来を約束されているばずで。過去の存在である自分のことなど「ふんっ」と鼻で笑ってしまえば良いはずなのに。
目の前の少女は、ギュッと唇を引き結んで、真っ直ぐで力強い目を向けている。
その瞳には、ただただ真っ直ぐに自分の姿しか映っていなくて。
嫉妬だの独占欲だの、女の醜い部分が一切見えない千彩を前に、玲子は「うん。わかってるよ」と一言返すのが精一杯だった。

