Secret Lover's Night 【連載版】

そんなことはお見通しな悠真は、千彩の物だと言うマグカップを両手で大事に持ったまま晴人の隣へとゆっくりと腰を下ろした。

そこは、異常なほどに冷静に怒っているメーシーの真ん前で。さすがにそこはー…と思う恵介だったけれど、当然それを口に出すことはしなかった。


「なぁ、にーちゃん。俺、にーちゃんのこと大好きやで。初めて会うた時から、この年になってもずっと」


背もたれに体を預け、足をソファに上げた状態の悠真は、完全に晴人に甘える状態で。長い前髪の間からチラリと晴人の様子を窺い、そしてその流れで智人を見た。

悠真や恵介からしてみれば、この二人は似た者同士だ。完璧なフリをしていても実は不器用で、けれどもそれでいていつでもカッコいい。だから憧れる。だから傍に居たい。素直にそう思える。

「レイちゃんのこと、智人に取られたなかったんやって言うとったやん?でも、悪いと思っとるって。智人がずっとレイちゃんのこと好きやったって知っとったって」
「…おぉ」
「ほんなら、そのお詫びにちーちゃんやる?智人がちーちゃんのこと好きなん、にーちゃんやったらわかっとるやろ?」
「おい。話をややこしくすんな。そんなんちゃう言うとるやろ。俺はただ…」

ただ、千彩を自分の妹として…そう続ける智人を鼻で笑い、悠真は晴人の顔を覗き込んだ。

「ほんなら、俺にちょうだいや」
「ちょうだいって…」
「妹が増えたみたいで可愛いねん。あかん?」
「あかんもなんも…」
「君、いい加減にしようか。姫は物じゃないんだ。あげるあげないの話じゃないだろ」
「せやったら、今あんたらがしようとしとるこの話し合いみたいなのは何なん?ちーちゃんの気持ちは無視なんやろ?そんなん、やるやらんと大して変わらんやん」
「そんな話し合いをしようとしてるわけじゃないよ。わからないなら黙ってて」

とうとう怒りを露わにしたメーシーまでも鼻で笑い、悠真はゆっくりと立ち上がってテーブルにマグカップを置いて長い前髪を掻き上げた。

「無視しとるんと同じやん。何の話し合いも要らん。無事で良かったな。もう約束破ったあかんで。黙ってどっか行ったあかんで。うん、わかった。それでええやん。他に何が要るん?」
「そうゆうわけにはいかないだろ。これから先のことだってあるんだ。現に彼は、彼女と別れる気でいる」
「何でそれをここで話し合うねんって言うとるねん。そんな話、二人でして二人で決めたらええことやん」

それに…と、三木兄弟を見下ろし、悠真は少し声のトーンを下げた。