Secret Lover's Night 【連載版】

シンと静まり返ったリビングに、男ばかりが五人。うわっ…嫌な空気だ。と、恵介に負けず劣らずお気楽な悠真は思う。

取り敢えず人数分のコーヒーを淹れてから参加しよう。甲斐甲斐しい悠真は、コーヒーメーカーのセットのためにキッチンへと入った。


「うわ…綺麗なキッチン」


人様の家のキッチンを物色するのはよろしくない。そうは思えど、その辺りのレベルが千彩と大差無い悠真は、好奇心を抑えることが出来なかった。

こんな状況でそれが出来るのだから、かなりマイペースな男なのだろう。でなければ、ただのバカだ。

どの扉を開いても、中身はきちんと整理整頓されていて。食器棚も、レンジ台も、コンロの前も、晴人らしいと言えば晴人らしい整え方だった。


「生活感無さ過ぎやろ、これ」


何もそれは、キッチンだけに限ったことではない。さっきまでいたベッドルームも、皆が集まるリビングも、初めに千彩がいたその隣の部屋も。どこもかしこも生活感が無さ過ぎて、悠真には違和感でしかなかった。

「恵介君、コーヒー淹れるからそこのカップ取ってやー。足りんわ」

張り詰めた空気の中、助かった…と言わんばかりに恵介はサッと腰を上げた。

どれだけ大切な話だとしても、恵介にはこの緊張感が耐えられないのだ。どうしても逃げ出したくなってしまう。そんなところは、三木兄弟の親友同士通ずるものがあった。

「これで足る?」
「うん。ありがとう」
「俺と晴人はこのマグでええわ。ちーちゃんのもあるから使うてええで」
「何で恵介君のがあるん?」
「ん?俺、ここで半同棲しとるから」

ニッと笑う恵介に、悠真も笑顔で返す。せめてここだけでも。そう思ったかどうかは定かではない。

「ここん家の片付けってな、にーちゃんがしとるん?」
「いや、ちーちゃんやで。晴人が仕事出てから、毎日やっとるで」
「ふぅん」

三木家の実家に居た頃も、千彩はよく片付けを手伝っていた。それを何度も目にしていたから、悠真は千彩が家事が出来ないとは思っていない。

けれど千彩の片付けは、母が仕込んだ三木家流のはずで。ここにはそれが無い。三木家流どころか、生活感の欠片も無いのだ。相当無理をして頑張っていたのではないか。そんなことは安易に予想出来た。


「ちーちゃん、無理してたんやろな」


思ってしまったが最後、口に出さずにはいられない。そんな悠真は、カップにコーヒーを注ぎながら苦笑いで言った。