Secret Lover's Night 【連載版】

「吉村さん」
「…え?はい」
「すいません。俺では千彩を幸せにしてやれません」

ソファから下りて頭を下げた晴人を見下ろし、下げられた側の吉村は戸惑うばかりで。怒るよりも悲しむよりも先に、どうしていいかわからない。


「ええ加減に…せぇや!」


戸惑う父親の代わりに、智人がキレた。晴人の弟、千彩の兄。そんな複雑な立場の智人が。


「何で俺が引き受けるって言われんのや!あんな状態目の前にして…あんな状態でもあいつはお前のことばっかりなんやぞ!」


千彩がどれほど晴人を想っているのか、嫌でも思い知らされた。

好きで好きでどうしようもない。不安定な状態でも、必ず出てくる晴人の名。自分を探して縋り付くくせに、最後には必ず晴人だった。


「あいつは…あいつはアホやけど…アホでガキでどしようもないけど…それでもお兄のことが好きなんや。一生懸命…一生懸命お兄のこと想ってんねんぞ!それを突き放すんかっ!」


どうか、突き放さないでやってくれ。
全て受け止めて、それ以上に想ってやってくれ。
大切にしてやってくれ。

泣きながら訴える智人を、漸く事態を呑み込んだ吉村が制す。

「トモさん、しゃあないですわ」
「しゃあないって…しゃあないちゃうやん!娘やん!俺ら家族になったんちゃうん!?」
「ハルさんにはハルさんの人生があります。あんな子供傍に置いてたら、思うように生きられへんでしょ」
「そんなん…それやったら最初から…」
「何年も傍におった俺でもわからんかったんです。わからんで当然。あんなん見て、嫌になって当然ですわ」

悲しげに笑いながら自分を宥めようとする吉村に、智人は必死に訴える。千彩は治る。俺が必ず治してみせるから、と。

「トモさん、もうええんです」
「何で…そんなん大人の都合やん!千彩の…あいつの気持ちはどうなんねん!」
「大人には大人の事情がある。千彩にはそれを教えんと」
「そんなんちゃうわ!そんなん…そんなん間違うとる!」
「トモさん!」

必死で食い下がって引こうとしない智人に、吉村が少し音量を上げて大きく首を振った。あぁ、諦めたのか。自分がああしてしまったから。自分に責任があるから、と。そんな吉村を前に、智人は唇を噛む。


「俺…智人がこんな慌ててんの初めて見るんやけど」


震える声で間の抜けた言葉を押し出す恵介に、晴人は苦笑いで。

それを見て、我慢出来なくなったのはメーシーだ。けれど彼は、取り乱したりなどしない。