Secret Lover's Night 【連載版】

残されたのは、涙を堪える四人と声を殺して泣く吉村。そして、カウンターチェアにゆっくりと腰掛けた智人。

誰もが無言で、誰もが複雑な思いを抱えていた。


「吉村さんのせいだけやない。あんたも悪いんや」


晴人を見下ろし、智人は言う。

兄だから、恋人だから。
そんなことは関係無い。

いや、だからこそわからなければならないことがある。


「何もわからんと偉そうなこと言うな。あれがずっと続いたら、とてもやないけど面倒見きれんやろ。甘やかすだけしかせんと、可愛がるだけしかせんと、あんたらは千彩のほんまのとこ見ようとしてへんやないか」


今度は、俯く仲間達全てに告げた。お前達は何も見ていない。だから口を挟む資格は無い、と。


「俺は反対やったんや。こんなとこであいつが暮らせるわけないやろ。何で戻って来んねん。カメラなんかどこでも出来るやろ」


そうする気でいる。けれど、そんなに簡単に物事は進まないのだ。そう言いたくとも、晴人の口から言葉は出ない。


「せーと…戻ろうや。もうあっち戻ろう」


涙声で訴える恵介が、晴人の腕をしっかりと掴む。これまで積み上げてきたキャリアだとか、知名度だとか、そんなもの捨ててしまおう、と。千彩より大切なモノは無い、と。

けれど晴人は、首を縦には振らなかった。

「俺は戻る気は無い」
「何でっ!だって…ちーちゃんあんなんなってんねんで!」

真っ直ぐに智人を見つめる晴人を見上げ、恵介はそれ以上何も言えなくなった。

何かを覚悟した時、晴人の目はいつもに増して強くなる。そしてそれは、決して自分の手では変えることの出来ない覚悟。

20年近く親友というポジションに立っていると、嫌でもわかってしまう。決断の時を、今まで何度も共に過ごしてきたのだから。