「あーあ。お前もにーちゃんと一緒やないか」
「あんな奴と一緒にすんな!」
「静かに!ここ店やから」
そう窘められ、慌てて口を噤む。周りの視線を気にしながらでも、決して千彩は腕の中から離そうとしない智人。そんな智人に、悠真は再び大きなため息を吐いた。
「誰の彼女よ、それ」
「俺の妹や」
「いやいや。にーちゃんの奥さんやん」
「うっさい!」
冷静なフリをしていたものの、智人自身も気が気ではなくて。もう戻ってこないかもしれない。そう思ったりもしたものだから、腕の中の温もりを離す気には到底なれなかった。けれど、それだけではない。
「千彩、何で約束破った?何で薬飲んでなかったんや」
「ごめん…なさい」
震えが治まらない千彩をギュッと抱き、智人は幾分か声音を優しくする。千彩の耳元で響かせる声は、親友の悠真でも滅多に聞くことが出来ない、千彩だけに向けられる特別な音だった。
「ほらみてみぃ。ちゃんと薬飲んでないからしんどなったやろ」
「うん…」
「ちゃんと飲め。もう約束破るなよ?わかったか?」
「…はい」
素直な千彩は、震えながらでも頷いて。何で?どうして?は、優しく紡がれる智人の声が消してくれた。
「寂しかったんか?一人で留守番すんの」
「…うん」
「どこ行っとったんや」
「公園。お弁当食べようとしてたら、どっか連れて行かれた」
「誰に?」
「しぐれって人。おっきなお花畑のあるお家で、大きなベッドも、キラキラの電気もあった」
「どこや、それ」
「わからへん。なぎさって人がいて、だんなさまって呼ばれてた」
千彩が持ち帰った数少ない情報。それで千彩を連れ去った相手を突き止めようと携帯を取り出した吉村に、悠真が慌てて待ったをかける。
「俺、相手知ってます」
「え?」
「藤極会の司馬ってとこの息子です。調べさしたから間違いないです」
カバンからよいしょとパソコンを取り出し、悠真は画面を吉村へ向けて頷いた。そこには、探偵の調査資料の如く事細かな情報が詰め込まれていて。
いったいどこでこれを…と言いかけた吉村より先に、「あっ…」と智人の方が早く反応した。
「そっか…お前ん家金持ちや」
「せやで。しかも、ちょっとやそっとの金持ちちゃうんやからな」
「せやった、せやった」
「ちーちゃんのネック、GPS機能搭載」
「はよ言えよ、それを」
「だって俺には教えてくれへんかったやん!」
ぶぅっと頬を膨らませる悠真を前に、吉村は困惑顔で。通話ボタンを押そうか押すまいか迷っている吉村に、智人は苦笑いで言った。
「あんな奴と一緒にすんな!」
「静かに!ここ店やから」
そう窘められ、慌てて口を噤む。周りの視線を気にしながらでも、決して千彩は腕の中から離そうとしない智人。そんな智人に、悠真は再び大きなため息を吐いた。
「誰の彼女よ、それ」
「俺の妹や」
「いやいや。にーちゃんの奥さんやん」
「うっさい!」
冷静なフリをしていたものの、智人自身も気が気ではなくて。もう戻ってこないかもしれない。そう思ったりもしたものだから、腕の中の温もりを離す気には到底なれなかった。けれど、それだけではない。
「千彩、何で約束破った?何で薬飲んでなかったんや」
「ごめん…なさい」
震えが治まらない千彩をギュッと抱き、智人は幾分か声音を優しくする。千彩の耳元で響かせる声は、親友の悠真でも滅多に聞くことが出来ない、千彩だけに向けられる特別な音だった。
「ほらみてみぃ。ちゃんと薬飲んでないからしんどなったやろ」
「うん…」
「ちゃんと飲め。もう約束破るなよ?わかったか?」
「…はい」
素直な千彩は、震えながらでも頷いて。何で?どうして?は、優しく紡がれる智人の声が消してくれた。
「寂しかったんか?一人で留守番すんの」
「…うん」
「どこ行っとったんや」
「公園。お弁当食べようとしてたら、どっか連れて行かれた」
「誰に?」
「しぐれって人。おっきなお花畑のあるお家で、大きなベッドも、キラキラの電気もあった」
「どこや、それ」
「わからへん。なぎさって人がいて、だんなさまって呼ばれてた」
千彩が持ち帰った数少ない情報。それで千彩を連れ去った相手を突き止めようと携帯を取り出した吉村に、悠真が慌てて待ったをかける。
「俺、相手知ってます」
「え?」
「藤極会の司馬ってとこの息子です。調べさしたから間違いないです」
カバンからよいしょとパソコンを取り出し、悠真は画面を吉村へ向けて頷いた。そこには、探偵の調査資料の如く事細かな情報が詰め込まれていて。
いったいどこでこれを…と言いかけた吉村より先に、「あっ…」と智人の方が早く反応した。
「そっか…お前ん家金持ちや」
「せやで。しかも、ちょっとやそっとの金持ちちゃうんやからな」
「せやった、せやった」
「ちーちゃんのネック、GPS機能搭載」
「はよ言えよ、それを」
「だって俺には教えてくれへんかったやん!」
ぶぅっと頬を膨らませる悠真を前に、吉村は困惑顔で。通話ボタンを押そうか押すまいか迷っている吉村に、智人は苦笑いで言った。

