晴の本名は「三木 晴人(みき はると)」と言う。
それをこの友人は「せいと」と読み間違えた。高校へ入学して知り合ったその日に、あろうことか大声で。
それ以降、上京するまでに出来た友達が呼ぶ名は例外無く「せーと」で。
上京してからは自ら「ハル」と名乗るようにし、恵介にも本名は堅く口止めた。よって、仕事関係の人間を始め、上京してからこっち付き合って来た女の中にも、晴人の本名を知る人物は少ない。
「まぁそう怒るなってー」
「お前やで?怒らせたんは」
「ごめんってー」
言葉の上では謝っているものの、それが本心ではないことを晴人は知っている。
その証拠に、挙げた両手を顔の両横で振り始めた恵介の顔は、ニヤニヤと笑っていて。それに腹を立てても仕方がないことは、十二分に心得ている。
何せ、互いを「親友」と呼べるほどに理解し合う仲なのだから。
けれど、今の晴人は虫の居所が悪くて。
「お前はいっつもそうやってなぁ!」
「あ、起きた?おはよう、マイエンジェル」
叱り付けようと力強く拳を握り締めたその姿を、叱られる側になるはずだった恵介は既に視界に入れていない。それどころか完全に晴人に背を向け、目を擦りながらベッドルームから出てきた千彩を、両手を広げて待ち構える始末だ。
「ちょっとでええから俺の話を聞けよ、お前は」
晴人がそうボヤいて肩を落とすのも無理はない。そんな晴人に、寝ぼけ眼の千彩が手を伸ばした。
どうやら、目の前で両手を広げる人物が目的の人物でないことはわかったらしい。
「んー。はるぅ」
「おおっ!可愛い!」
「ロリコンはお前ちゃうんか。おいで、ちぃ」
ペタペタと音をさせて晴人に歩み寄る千彩を目で追いながら、出来上がったコーヒーを勝手にカップへと注ぎ、L字型のソファへと腰掛ける恵介。
変わらぬ柔らかな座り心地に、うんうんと黙って頷いた。
「はるー」
「はいはい。煩くしてごめんやで」
「何で怒ってるん?誰に怒ってるん?」
コーヒーを注ぐ晴人の背にピタリと密着し、腕を前に回して逃がさない状態を作った甘えん坊が尋ねる。
その様子を横目で見遣り、恵介は再び「マイエンジェル!」と悶えた。
それをこの友人は「せいと」と読み間違えた。高校へ入学して知り合ったその日に、あろうことか大声で。
それ以降、上京するまでに出来た友達が呼ぶ名は例外無く「せーと」で。
上京してからは自ら「ハル」と名乗るようにし、恵介にも本名は堅く口止めた。よって、仕事関係の人間を始め、上京してからこっち付き合って来た女の中にも、晴人の本名を知る人物は少ない。
「まぁそう怒るなってー」
「お前やで?怒らせたんは」
「ごめんってー」
言葉の上では謝っているものの、それが本心ではないことを晴人は知っている。
その証拠に、挙げた両手を顔の両横で振り始めた恵介の顔は、ニヤニヤと笑っていて。それに腹を立てても仕方がないことは、十二分に心得ている。
何せ、互いを「親友」と呼べるほどに理解し合う仲なのだから。
けれど、今の晴人は虫の居所が悪くて。
「お前はいっつもそうやってなぁ!」
「あ、起きた?おはよう、マイエンジェル」
叱り付けようと力強く拳を握り締めたその姿を、叱られる側になるはずだった恵介は既に視界に入れていない。それどころか完全に晴人に背を向け、目を擦りながらベッドルームから出てきた千彩を、両手を広げて待ち構える始末だ。
「ちょっとでええから俺の話を聞けよ、お前は」
晴人がそうボヤいて肩を落とすのも無理はない。そんな晴人に、寝ぼけ眼の千彩が手を伸ばした。
どうやら、目の前で両手を広げる人物が目的の人物でないことはわかったらしい。
「んー。はるぅ」
「おおっ!可愛い!」
「ロリコンはお前ちゃうんか。おいで、ちぃ」
ペタペタと音をさせて晴人に歩み寄る千彩を目で追いながら、出来上がったコーヒーを勝手にカップへと注ぎ、L字型のソファへと腰掛ける恵介。
変わらぬ柔らかな座り心地に、うんうんと黙って頷いた。
「はるー」
「はいはい。煩くしてごめんやで」
「何で怒ってるん?誰に怒ってるん?」
コーヒーを注ぐ晴人の背にピタリと密着し、腕を前に回して逃がさない状態を作った甘えん坊が尋ねる。
その様子を横目で見遣り、恵介は再び「マイエンジェル!」と悶えた。

