Secret Lover's Night 【連載版】

晴人がついているから大丈夫。そう安心していた部分もある。それなのにこの有様。怒りをぶつけたくもなる。

それがたとえ、千彩が最も愛する人物であったとしても、自分の実の兄だったとしても。

「戻って来たら連れて帰るからな。ここには置いとけん」
「ちょ…ちょっと智人!そんなんちーちゃんが納得するわけないやろ!勝手に決めたあかん!」
「そうだよ。それは彼女が決めることであって、君が決めることじゃないよ」
「部外者は引っ込んどいてもろてええですか?これはうちの家族の問題なんで」

ピシャリと拒絶され、恵介とメーシーは顔を見合わせた。

二人共、智人が献身的に千彩を支えてきたことは晴人から聞かされている。事細かに内容を聞いたわけではないけれど、それはそれ、これはこれ、のはずで。

納得がいかない…と眉根を寄せるメーシーに、恵介が両手を広げて肩を竦めて見せた。

「こいつ、言い出したら聞かんねん」
「だからって…」
「晴人より智人の方が真面目やねんよなぁ。何事に対しても」

そう言われ、メーシーは改めて智人の姿を見る。そして思う。見た目はこっちの方がいい加減そうだけど?と。

派手に染色されセットされた髪に、流行りの服。晴人によく似た目元には、太い黒のラインがしっかりと入っている。

これのどこを見れば真面目だと?と言いかけ、その目に涙が浮かんでいることに気付いた。


「俺が…俺がどんだけ苦労して千彩をあそこまで回復させたと思ってんねん。毎日毎日大変やったんやぞ!それを何やねん!薬は飲まさん、ちゃんと見てへん、おまけにどっかやってまうって。何やねん!俺に何か恨みでもあるんか!」


晴人の胸倉を掴みながら、智人は声を震わせて訴える。頬に涙を伝わせ、それを拭うことさえせずに必死に。溶けたラインの染料で、頬には黒い跡が伝っていた。