Secret Lover's Night 【連載版】

あまりのマリの空気の読めなささに一旦怒りを抑えた智人の視界の隅に映ったのは、ソファに横たわる千彩の親友であるぬいぐるみの姿で。それを抱いて泣きながら自分に擦り寄って来る千彩の姿を思い出し、智人はグッと唇を噛んで乱暴に晴人を解放した。

落ち着いたのを見計らい、吉村が智人の肩の手を置いてソファへ座るように促す。

「吉村さん、千彩は?」
「一家の総力を上げて捜しとる最中です」
「総力って…」

吉村の職業は、智人もよく知っている。関西でも有名な裏社会の住民である吉村は、毎日忙しく全国を飛び回っている。ここへも仕事で来たのだろうと安易に予想がついた。

「吉村さんは仕事で?」
「はい。トモさんは…」
「俺はライブやったんです。電話もろて、慌てて来たんですけど」
「ライブやったんですか。ご迷惑かけてすんません」

娘の不始末は親である自分の責任。そう思う吉村は、身を小さくして智人に頭を下げた。

「ハルさん、もうちょっとの辛抱ですから。すぐ見つかります」

俯いたまま立ち尽くす晴人の背中を叩き、吉村はニッと笑顔を見せる。それをじっと見上げていた智人は、ふと何かに気付き立ち上がってサイドボードを漁り始めた。


「何やねん…これ」


サイドボードの引き出しには、一切手の付けられていない薬が入った投薬袋がいくつも詰め込まれていて。数週間分では済まないだろうその量に、智人は愕然とする。あれだけ毎日薬を飲むように言っているのに…と、グッと唇を噛みながら一人胸の内でごちた。


「知っとったんか、これ。知っとって放っといたんか!」


それを投げ付け、智人は肩で息をしながら再び晴人の胸倉を掴み上げる。自分と離れてふた月。薬を止めていたとなると、千彩の精神状態はいつ崩れてもおかしくはない。そう判断して。


「千彩を何やと思っとんや!ええ加減にせぇ!」


智人にとって千彩は、可愛い妹。いや、それ以上の存在で。毎晩暇を見つけてはパソコンのTV電話を繋ぎ、「調子はどうだ?」「薬は飲んだか?」と気に掛けていた。