Secret Lover's Night 【連載版】

「晴人ぉ!何しとんじゃこのボケッ!」


大声を上げて駆け込んできたのは、ばっちりセットをキメたチャラ男…いや、智人だった。自慢の美形は、既に吉村も引くほどに鬼の形相と化している。周りの状況は完全に無視しズンズンと突き進んで来ると、智人はそのまま実の兄の胸倉を掴み上げて凄んだ。

「千彩どこやった!」
「待って、待って、智人」
「待たん!何でちゃんと見てへんねん!」

怒り心頭の智人と、慌ててそれを止めようとする恵介。そしてされるがままの晴人は、再び俯いてグッと唇を噛んだ。

「トモさん、まぁ落ち着いて」
「千彩はっ!」

やれやれ…と、仲裁に入ろうとした吉村までも跳ね除け、智人はグッと晴人に顔を近付けた。

「黙ってやり過ごそうなんか思うだけ無駄やぞ!はよ捜さんかい!外で発作起こしたらどないすんねん!」

一時期よりも随分とマシになったと言え、千彩の情緒不安定はまたいつ顔を出すかわからない。千彩が一番不安定だった時期を共に過ごした智人には、それは重大な不安要素だった。

「アンタが晴の弟?マリよ。nice to meet you」

あまりの騒々しさに我慢できずに隣の部屋から顔を覗かせたマリが、キラキラと目を輝かせて右手を差し出す。空気を読めとか何だとか、ツッコむだけ無駄なのは晴人も恵介も承知していて。それにうーんと唸ったのが、夫という名の世話係であるメーシーだ。

「麻理子、今はゆっくり挨拶してる状況じゃないから、また後にしようね」

優しげな笑顔を作るメーシーに、マリの表情が引き攣る。黙って右手を引くと、マリはサッと恵介の背後へ隠れるように身を引いた。

「ケイ、早く止めなさいよ。めいじが怒ってるじゃない」
「いや…怒られてんのはマリちゃんやと…うっ」

小さな抵抗も、背中への一撃で呑み込まざるを得ない。JAGの女王様は、いつ何時でも女王様なのだ。