Secret Lover's Night 【連載版】

「メーシー…俺…」
「そんな顔すんなよ。仕事のことはまた話し合おう」

所長を初め、職場の仲間は千彩をモデルにすることに反対はしなかった。それで晴人が今まで通りのスケジュールを組んでくれるならば大歓迎だった。

けれど、独占欲のためにそれに首を横に振ったのは晴人で。


「だから言ったじゃない。princessは留守番なんて出来ないって」


そう言い切ってしまうと語弊があるけれど、「家の中で大人しくしている」ということは千彩には無理だった。好奇心が旺盛で、何事にも目をキラキラと輝かせて興味を示す。知らないことが多過ぎるものだから、キラキラの具合も絶好調だった。


「ただいまー」


玄関から聞こえてきた何とも緊張感の無い声に、メーシーはふぅっと大きく息を吐いて眉根を寄せる。少しは緊張感を持てよ!と、言葉に出来ない思いを呑み込み、余計な口を挟ませないようにマリを隣の部屋へと移動させた。

「ただいま」
「おかえり」
「ハルさん…すんません。ちー坊がえらい心配かけて。ほんまあいつだけは…」

すぐ見つけ出してキツく叱りますんで!と頭を下げる吉村に、晴人は大きく首を横に振って眉尻を下げた。

「叱らんといてください。独りにしとった俺が悪いんです」
「いやいや!18にもなって留守番もよぉせんなんか恥ずかしい娘ですわ。ほんまに申し訳ない」
「俺が…悪かったんです」

この数時間、これ以上無いくらいに自分を責めた。

結局、自分は千彩のことをわかってやれていない。こんなことならば実家に置いておけば良かった。そうすれば、こんなことにならずに済んだかもしれないのに。

そんな風に鬱々と自分を責めていたものだから、もうこの言葉しか出ない。


それにうぅんとしかめっ面をしたのが、長年「親友」というポジションについている恵介だ。公園から持ち帰った千彩のお弁当箱をキッチンに置き、「あーあ」とわざとらしく声を上げて晴人に近付く。そして、正面に立って思いっきり額をぶつけた。それも、ゴンッと音がするほど力一杯。

「ったぁ!何すんねん!」
「うじうじすんなや。テンション下がる」
「テンション上げとる場合ちゃうんがわからんのかお前には!空気を読め!空気を!」

恵介が加わることによって、場の空気が一変する。それを空気が読めないと取るか、上手だと取るか。前者の晴人と、後者のメーシー。それぞれの思いは、吉村の大きな笑い声に一瞬にして吹き飛ばされた。

「あははは!相変わらずですな」
「すいません、吉村さん。どうもこいつは昔から緊張感が無くて…」
「晴人がピリピリしすぎなんや。もっと大きく生きな損すんで?」
「お前が言うな!」

バシッと軽快な音を立てて決まった晴人のツッコミに、吉村は更に大きな笑い声を上げる。

けれど、そんな和やかな空気もそう長くは続かなかった。