ふわりと軽いジャケットの下には、恵介が一目惚れして買ったという生地で作られた小花柄のワンピース。それにショート丈のウエスタンブーツを合わせた姿で、千彩はお弁当包みを大事に抱えて家を出た。
鍵を閉め、エレベーターに乗ったところで思う。あ、携帯忘れた!と。けれど、千彩の気分はもう家の外で。思っただけで取りには戻らず、コンコンッとブーツの踵を鳴らしてエントランスを出た。
「あったかーい。やった」
柔らかなワンピースの裾を揺らし、千彩はいそいそと目的地を目指す。ポケットの中に入っているお金は、100円玉が二枚。ジュース一本分の金額だけれど、千彩にはそれで十分だった。
「今日は何にしようかなー」
自販機の前で小銭を取り出し、千彩はうぅんと悩む。昨日は雨で外に出られなかったので、今日は二日分のうきうきがある。よし!と決めてボタンを押し、温かいココアをお弁当包みの上に乗せてお気に入りの場所を目指した。
「あれー?今日は誰もいない」
急ぎ足で辿り着いたのは、ここ数週間通い詰めている公園。そんなに大きな公園ではないのだけれど、小さな子供を連れた母親達が毎日ここで集まっているのだ。
その輪に入る…わけではなく、母親達の連れた子供達と公園の遊具で遊ぶのが千彩の楽しみだった。そのために毎日おにぎりを作り、ここへと足を運んでいる。晴人には秘密の、千彩の毎日の楽しみだった。
「んー。今日はちさ一人ぼっち」
しゅんと肩を落とし、千彩はベンチに腰掛ける。せっかく友達が出来たと思ったのに…と、ガランとした公園を見渡した。まだ少し時間が早かったかもしれない。もう少ししたら、きっと皆集まって来るはずだ。そう納得することにし、大事に抱えてきたお弁当包みを膝の上で開く。
「おにぎりたーべよっと」
寂しさを紛らわすための独り言も、シンと静まり返った公園にはよく響く。ココアの缶を脇に置き、おにぎりを一つ手に取った時だった。
目の前に突然人影が現れ、ん?と顔を上げた千彩。声を出す間も無くひょいっと抱え上げられた千彩の膝の上からお弁当箱が滑り落ち、ラップに包まったおにぎりが三つ、コロンと地面に転がった。
「えっ?誰?」
肩に担がれ、千彩はジタバタともがく。けれど、微動だにしない相手は千彩を担いだまま公園を後にした。
残されたのは、ベンチに置きっぱなしの新品のココアと、その下に転がった三つのおにぎり。そして、子供達にも大人気だったヒーローが描かれた千彩のお弁当箱だけだった。
鍵を閉め、エレベーターに乗ったところで思う。あ、携帯忘れた!と。けれど、千彩の気分はもう家の外で。思っただけで取りには戻らず、コンコンッとブーツの踵を鳴らしてエントランスを出た。
「あったかーい。やった」
柔らかなワンピースの裾を揺らし、千彩はいそいそと目的地を目指す。ポケットの中に入っているお金は、100円玉が二枚。ジュース一本分の金額だけれど、千彩にはそれで十分だった。
「今日は何にしようかなー」
自販機の前で小銭を取り出し、千彩はうぅんと悩む。昨日は雨で外に出られなかったので、今日は二日分のうきうきがある。よし!と決めてボタンを押し、温かいココアをお弁当包みの上に乗せてお気に入りの場所を目指した。
「あれー?今日は誰もいない」
急ぎ足で辿り着いたのは、ここ数週間通い詰めている公園。そんなに大きな公園ではないのだけれど、小さな子供を連れた母親達が毎日ここで集まっているのだ。
その輪に入る…わけではなく、母親達の連れた子供達と公園の遊具で遊ぶのが千彩の楽しみだった。そのために毎日おにぎりを作り、ここへと足を運んでいる。晴人には秘密の、千彩の毎日の楽しみだった。
「んー。今日はちさ一人ぼっち」
しゅんと肩を落とし、千彩はベンチに腰掛ける。せっかく友達が出来たと思ったのに…と、ガランとした公園を見渡した。まだ少し時間が早かったかもしれない。もう少ししたら、きっと皆集まって来るはずだ。そう納得することにし、大事に抱えてきたお弁当包みを膝の上で開く。
「おにぎりたーべよっと」
寂しさを紛らわすための独り言も、シンと静まり返った公園にはよく響く。ココアの缶を脇に置き、おにぎりを一つ手に取った時だった。
目の前に突然人影が現れ、ん?と顔を上げた千彩。声を出す間も無くひょいっと抱え上げられた千彩の膝の上からお弁当箱が滑り落ち、ラップに包まったおにぎりが三つ、コロンと地面に転がった。
「えっ?誰?」
肩に担がれ、千彩はジタバタともがく。けれど、微動だにしない相手は千彩を担いだまま公園を後にした。
残されたのは、ベンチに置きっぱなしの新品のココアと、その下に転がった三つのおにぎり。そして、子供達にも大人気だったヒーローが描かれた千彩のお弁当箱だけだった。

