Secret Lover's Night 【連載版】

泣き疲れて眠ってしまった千彩をベッドルームに移し、晴はポケットに入れっぱなしだった携帯を引っ張り出す。

二つ折りのそれを見ながら少し思案し、深く息を吐いて電源を入れた。

「わー。ははっ」

やはり並ぶ名は、一方的に別れを告げた恋人だった女の名で。乾いた笑いも出てしまうというものだ。


悪い女ではなかった。そう思いたい。

元々仕事上の付き合いがあった彼女の職業は、ファッションモデルで。外面「だけ」は晴も称賛したくなるほど「優秀な彼女」だった。

恋人同士としての付き合いをして二ヶ月ほど経って気付く。外面だけなのだ、と。


「俺…何が楽しくてあいつと付き合ってたんやろ」


ボソリ、と漏れた言葉が全てだった。

確かに、可愛らしい女だと思っていた。嫉妬する姿も、あれこれと強請る様も。

宥めることもご機嫌取りに何かを買い与えることも、好きとは言い難いけれど、嫌いとは言い切れなかった。結婚を迫られるよりはまだいい。そう思っていた節もある。

それが程々であったならば。


「あー!もうやめやめ!」


ソファに倒れ込み、手の中の攻撃的な機械を手放す。何とか思考を切断しようと呻き声を上げてみるも、やはり女の影は執拗に付き纏って。このままではすぐに彼女からの着信音が流れ出すだろうことに気付き、むくりと体を起こし電源を切ろうとする。

そして、気付く。

そんなメランコリックな気分に陥るために電源を入れたわけではないということに。