Secret Lover's Night 【連載版】

そして、千彩の大好きなたまご焼きの準備をする手を止め、ペコリと母に頭を下げた。

「ありがとう」
「え?」
「千彩のこと。こんだけ受け入れてもらえるやなんて思ってなかったら、正直びっくりしたけど」
「それは…智人に言うてあげて」
「大丈夫や。智とはちゃんと話したから」
「そう。ほんならもう気にすることないわ。ちーちゃんは家族やもの。お母さんの大事な娘よ」

千彩をここへ連れて来た日は、家族全員がそれはそれは苦々しい表情で迎えてくれて。自分が懸命に千彩への想いを伝えて家族は何とか理解を示してくれはしたものの、なるべく千彩を一人でここに泊めないようにスケジュールを調整して戻って来た。

おかげで、「ハル結婚説」は払拭されるどころか濃くなってしまって。まぁいいか…と思いはしたものの、仕事が多少やり辛くなったことは否めない。

「ちーちゃん一人でも大丈夫よ?」
「え?おぉ」
「せっかく頑張ってきた仕事なんやから、無駄にしたらあかんよ?」
「わかってる」

そんな晴人の考えを見透かしていた母は、同じようにキッチンに並んで晴人の手からフライパンを奪い取った。

「ちーちゃん起こしてきてくれる?そろそろお腹が空く頃やわ」
「幼稚園児とちゃうんやから」
「そんなこと言うて、お腹空いたー!って泣き出しても知らんよ」
「そりゃあかん」

慌てて和室へと駆ける晴人は、とても柔らかな空気を纏っている。この一ヶ月、愚痴を零すことはなかったけれど、相当悩んだことだろう。もしかすると、仕事を辞めてこっちへ帰ってきてしまうかもしれない。

そう思っていた母は、グラつくことなくしっかりと立っている晴人の姿に「さすが私の息子」と小さく呟いた。