Secret Lover's Night 【連載版】

「誕生日プレゼント、貰いに行くから」
「え?おぉ。いつでも来い」
「すぐ行く。本気出したらあっと言う間や」
「ははっ。はよ本気出せよ」
「わかっとるわ」

自分の覚悟が足りなかった。智人とてそれはわかっている。逃げ道を残し、いつでも言い訳が出来るようにしてきた。

けれど、それでは晴人は超えられない。千彩の面倒を見るようになって、智人には痛いほどそれがわかった。

「俺、別に千彩のこと欲しいわけちゃうから」
「は?」
「お兄の女やから…家族やから、アイツは」
「…おぉ」
「でも、玲子はちゃうぞ。玲子は連れて行って正解やった。せやなかったら、俺はお兄から奪ってた」
「…やろな」
「泣かせやがって」
「悪いことしたと思っとる。お前には」

玲子が戻って来たと聞いた日、智人は慌てて玲子の家へと行った。けれど玲子は、泣いて部屋に篭ったまま、智人に会おうとはしてくれなかった。


自分が晴人の弟だから。


そう呑み込むしか、智人には感情の処理をする方法が見当たらなかった。

「玲子には?玲子には思ってへんのか?」
「どやろな」
「何があってん、玲子と」
「俺は何もしてへん」
「何もしてへんことあらへんやろ。せやったら何で別れてん」
「浮気もケンカもしとらへん。俺は、な」

嘘やと思うなら恵介に聞け。と、晴人は言い切る。そんなことで嘘を吐くような兄ではないとわかってはいるのだけれど、智人にはどうも納得がいかない。

そんな智人に、晴人は一度深呼吸をして視線を遣った。

「俺、向こう行ってからカメラに転向したやろ?」
「…おぉ」
「忙しかったんや。サポートしながらカメラも覚えなあかんし、家帰ったら帰ったで恵介の面倒見なあかんかったし。正直、玲子の相手しとる間なんかなかった」
「せやかて…お兄が一緒に来い言うたんやん。お兄が玲子連れて行ったんやろ」
「せや。最初はな、それでも頑張れ言うてくれてたんや。せやから俺も、あいつの期待に応えたいと思ってた。でも、あいつは逃げた」
「逃げたって…」

急激に低くなった晴人の声と、重くなった空気。

それに思わず身震いをした智人は、じっと自分を見つめたままの視線からどうにか逃げ出したくて。コーヒーをもう一杯淹れに行こうかとも思ったのだけれど、自分を見据える晴人が「そこに居ろ」「聞け」と言っている気がして。