Secret Lover's Night 【連載版】

キッチンに立った智人は、手早く片付けを済ませて冷蔵庫の扉を開いた。そして、不機嫌そうに晴人に尋ねる。

「アイツ、起きてプリン食うた?」
「え?いや、わからんわ」
「一個減っとる」
「あぁ、それ俺が食べたんや」
「は?」
「美味かったぞ」

ニヤリと笑う晴人に、智人は冷蔵庫から取り出した卵をぶつけてやろうかと考えた。けれど、それをしてしまえば間違いなくケンカになる。

これ以上母に怒られるのはゴメンだ。そう思い、ふと母の姿が無いことに気付いた。

「母さんは?」
「和室で寝とるわ」
「へぇ…珍しい」

普段ならば真っ先に起きて朝食の準備をしている母が、今日はえらくゆっくりとしている。それに疑問を抱いたのは、何も智人だけではなかった。

「疲れとるんやろな、母さん」
「…やろな」

先を越されてしまい、ムッと表情を歪ませて智人は答えた。そして、そのまま黙り込んで日課となった千彩のプリン作りに取り掛かろうとし、ピタリと手を止めた。

「今日、出かけるやろ?」
「おぉ。どっか行きたいんやったら連れて行ったろうと思ってるけど」
「ほな、プリンも弁当も要らんな」

するりとエプロンを取ってコーヒーを片手に戻った智人に、晴人は問う。

「毎朝作ってんのか?」
「おぉ。せっかく作れるようになったからな」
「父さんがびっくりしとったぞ」
「まぁ…そやろな」

まさか自分がこの家のキッチンに立つことになるとは、智人でさえ思ってもいなかった。けれど、千彩のやりたいことはなるべくやらせてやりたい。プリン作りも弁当作りも、そんな思いで付き合ってきた。

「俺だって、いつでもキツイわけちゃうぞ」
「わかっとる。ありがとうな、智人」
「別に。礼なんか言われることちゃうわ」

改めてそう言われると、何だか照れくさくて。ふいっと顔を背け、智人は昨日悠真とした誓いを晴人に語った。