Secret Lover's Night 【連載版】

「はる、あのね?」

スライド式のガラス扉を開けた千彩の手には、ここへ来る時に持ってきた小さな鞄があって。その中身を再び腰を落ち着けた晴の前にぶちまけると、千彩は申し訳なさそうに眉尻を下げた。

「お金、これだけしかないけど…」
「うん?」
「これだけしかないけどね、ちさここに居てもいい?」
「え?」
「逃げてしまったからお店には戻れないけど、違うお店に行ってちゃんとお金もらって来るから。服もくつも、ちゃんと自分で買うから。ご飯もちゃんと自分でする。だから、はると一緒にここに居てもいい?」

縋るような目で問いかける千彩の肩が、小さく震えていた。ギュッと唇を噛んで、不安げに己の言葉を待っているのがわかる。

そんな千彩の頭を一度ぐしゃりと撫でると、晴は完全に投げ出されてしまった荷物を一つずつ集める。その様子をじっと見つめている千彩の手を取り、揃えた33枚の一万円札を握らせた。

「千彩?」
「…はい」
「これはな、いつか千彩が俺を嫌いになって、ここを出て行く時のためにとっとき」
「いつか?」
「言うたやろ?俺がお前のこと守ったるって」
「はる?」
「金なんか要らん。違う店なんか行く必要ない。服も靴も俺が買うたるし、メシだって俺が美味いもんいっぱい作って腹一杯にしたる。だから…な、お前はなんも気にせんとここにおったらええんやで。な?」

泣き出した千彩の両頬にそっと手をやり、包み込んで引き寄せる。鼻先に掠めるだけのキスをして、震える体をギュッと抱き寄せた。


「何も心配要らん。だからもう泣きな」


トントンとあやすように背を叩き、晴は何度も頷く千彩の存在をしっかりと確認する。ただ、この腕の中に千彩がいる。それだけで得られる満足感がある。

それを手放さぬように守ることが幸せ。晴はそう信じることにした。