Secret Lover's Night 【連載版】

「ありがとうな、ちー坊」
「ん?」
「俺の子供になってくれてありがとう」
「どういたしまして!」

千彩には、吉村の涙の意味はよくわからない。けれど、嬉しそうに笑いながら泣いているから、これはきっと「嬉し涙」というやつだ。そう思ってにっこりと笑いながら吉村にタオルを渡した。

「今日もお仕事?」
「おぉ。せや」
「じゃあ、ちさが朝ご飯作ったげるね」
「ご飯?そんなもんちー坊に作れるんかいな」
「大丈夫!毎日ままと一緒に作ってるもん!」

そう言ってキッチンへと駆けて行く千彩の背中を見送り、吉村は緩んだ涙腺を締めるゆに冷たい水で顔を洗った。


洗顔を終えた吉村が戻ると、ダイニングテーブルの上には既にパンの乗った皿とコーヒーカップが並べられていた。

「もうちょっと待ってねー。すぐできるよ」
「おぉ。何しとるんや?」
「たまご焼いてる。ぐちゃぐちゃ…じゃないや。スクランブルエッグ!」
「スクランブル?またオシャレなもんを…」
「できたー!」

嬉しそうに千彩が持って来た皿の上には、吉村家では「ぐちゃぐちゃ卵」と呼ばれているものが乗っていて。何が違うんや…と思いながら、吉村はその皿を受け取ってテーブルに並べた。

「さぁ、どうぞ」
「おぉ。ほな、いただきます」

手を合わせた吉村に、千彩は満足げに頷いて向かいに腰かけた。

「たまごはね、パンに乗せて食べると美味しいよ」
「ほぉ…そうか。これがスクランブルエッグゆうんか?どうちゃうねん」
「あのねー、ぐちゃぐちゃたまごはね、スクランブルエッグってゆうんやって」
「ほぉ。そんなオシャレな名前やったんか」
「やってー。はるが教えてくれた」

「ちゃんと覚えてたんか」

匂いに誘われて目を覚ました晴人が、ソファから起き上がって声をかける。それに驚いた吉村は、飲み込みかけていたパンを喉に詰まらせて苦しそうに咽た。