Secret Lover's Night 【連載版】

「お久しぶりです、吉村さん」
「おぉ!ハルさん!お久しぶりですな!」

ニカッと歯を見せて笑う吉村は、いつも持っているセカンドバッグの他に二つの袋を抱えていて。片方を顔の横まで上げ、ひょっこりとリビングへ顔を出す。

「親父さん、ええの手に入りましたで」
「おぉ。早かったやないか」
「ちょうど家に戻ったとこやったんですわ」
「そうか、そうか」

飲み仲間とでも言うのだろうか。遠方で仕事をした帰りには、吉村は必ず銘酒を抱えて三木家へ訪れた。

「トモさんは?」
「上で悠真と悪だくみでもしとるんやろ」
「ユウマさんと?ほな、バンドの相談ちゃうんでっか?」
「そんなええもんとちゃうわ。あいつらのことや。どうせロクなことしとらん」

そうは言うものの、父は何だか嬉しそうで。そんな父の背中を眺めながら椅子に腰かけた晴人に、吉村はもう一つ提げていた紙袋を差し出した。

「これ、明日トモさんに渡しといてもろてもええですか?」
「智に、ですか?」
「今日誕生日やてママさんに聞いとったんで、プレゼント用意しとったんです」

中を覗くと、何やらメーカーの名前が見える。首を傾げる晴人に、吉村はへへっと笑って頭を掻いた。

「そうゆうの全くわからんので、下のもんに一番ええの買うてこい言うたんですわ。プロ仕様のやつ」
「プロ仕様?」
「ギターの絃なんですわ。トモさんにはそれが一番役立つやろう思いまして」
「あっ、なるほど。すいません、気を遣わせて」
「いやいや。ちー坊がこんだけ世話になっとるんです。まだまだこんなもんじゃ足りてません」

吉村にとっても、智人はもはや頭の上がらない存在で。自分が気付くことのできなかった千彩の心の病に気付き、それを力不足な自分の代わりに支えてくれている。ギターの絃一つで恩返しが出来るとは思っていないけれど、どうしても何かしたかった。

「晴人、つまみもっと作れ」
「あー、はいはい」
「終わったらお前も付き合えよ」

仕方ない。今日くらい付き合ってやるか。と、母の愛用のエプロンを着けながら、晴人は再びキッチンに立った。

こっちが出来あがる頃には、あっちも出来あがっているはずだ。そう思うと、何だか妙におかしくて。くくくっと笑いを噛み殺し、更けていく夜を楽しむことにした。