そして、運命の高校二年生の冬。


バンドの練習を終えての帰り道、差し掛かった公園の入り口で、ふと見慣れた二人の人物を見つけた。

「ええ加減にせぇや」
「ええ加減にすんのはあんたや。このあんぽんたんめ!」

聞き慣れたやり取りに、ふっと智人の表情が緩む。犬猿、とまではいかないものの、晴人と玲子は幼い頃から折り合いが悪くて。事あるごとに言い合いをし、頭の回転の速い晴人にどこか抜けた玲子が言い負かされる。そんな関係だった。

「外でケンカすんなや、みっともない」

そう声を掛けて止めるのはいつも智人の役目だった。放っておけば、玲子が言い負かされて悔し泣きをするまで止めないのがこの二人。

どうせいつもと同じだろう。そう思って止めに入った智人は、自分の浅慮を知った。

「この浮気もん!」
「してへん言うてるやろ。何回言うたらわかんねん、このアホ女!」
「あほ言うな!どこでもかしこでも女にキャーキャー言われやがって!」
「俺のせいちゃうやろが」
「あんたがチャラチャラしとるからやろ!このあほ晴人!」

今までとは違うそのやり取りに、智人は戸惑い過ぎて言葉が続かなかった。


この二人の関係は、ケンカの多い幼なじみ。
そのはずで。


週に何度も家に来るけれど、玲子は殆どリビングか自分の部屋に居る。晴人の部屋に入っているところなど、まず見たことがない。


まさか…まさか…と、智人は何度も頭の中で繰り返した。