Secret Lover's Night 【連載版】

「楽しかったな」
「じゃあ、ちさも楽しかった！」

千彩という少女は、複雑なようで単純な思考の持ち主で。誰かが嬉しければ自分も嬉しい。誰かが楽しければ自分も楽しい。そう簡単に言うものだから、もうすぐ２６になろうとする智人にはそれが羨ましくて仕方がなかった。

「お前は単純でええなぁ」
「たんじゅん？」
「幸せやなってことや」
「うん！ちさは幸せ！」

ちゃぷちゃぷとお湯で遊びながら笑う千彩からは、不安定さは微塵も感じない。どちらかと言えば、のほほんとお気楽に日々を過ごしていそうな雰囲気だ。

けれど、トラウマとなっているものに触れてしまうと、途端にそれは崩れてしまう。何か良い手はないだろうか…と思案する智人に、ぴちゃっとお湯をかけた千彩が「えへへっ」と笑った。

「ガキか」
「ちさ、大人やもん。ゆーまがそう言ってたもん」
「ちゃうちゃう。悠真の方がお前よりガキやったってことや」
「じゃあ、ちさは大人になってない？」

しゅんとする千彩の頭をくしゃくしゃと撫で、智人はコツンと額を合わせて笑った。

「ちょっとは大人になったかもな」
「ほんと？」
「おぉ。そろそろ上がれ。俺が寒い」
「うん」
「よし。ちゃんと髪も拭けよ」
「はーい！」

すっかり兄貴どころか父親化してしまっている智人は、パタンと扉を閉めてタオルを外し、少し冷えた体を湯船に沈めた。