Secret Lover's Night 【連載版】

「大きな声出すとね、ああなってしまうんよ。普段はあの子も気を付けてるんやけどね」
「すんません…」
「落ち着くまで、もうちょっと待ったげてね」

何度かこんな姿を見ている父と母は、気にはしているものの然程心配をしている様子はなくて。

それとは逆に、今まで自分が大きな声を出しても、泣き喚きはしてもああはならなかったのに…と、初めて千彩のこんな姿を見た吉村は心配で仕方がない。

「はる…」
「晴人に電話するか?」
「はる…お仕事?」
「おぉ、この時間やったらそうかもしれんな」
「じゃあいい」
「終わったら電話かかってくるやろし、風呂入って俺とゆっくり話そか」
「今日は…何のお話する?」
「せやな…俺が姉ちゃんの話したろ」
「…うん」
「よし。風呂入るぞ」

縋り付いたままの千彩を引き剥がし、バスルームへと促した智人。そして、そこでふと気付く。自分が怒った原因は風呂だった、と。


「まぁ…暫くお兄には黙っとってもらう方向で」


そう言い残し、腹を括った智人はバスルームへと足を進めた。その背中を見送りながら、どうにか落ち着いた千彩に親三人がホッと安堵の息を吐く。

「びっくりしたでしょ?」
「はい…」
「ああやってね、仕事があるからって遠慮するんよ」
「それは私が…」

仕事は大切だ。邪魔をする子は悪い子だ。そう躾けた自分が悪かった。それを目の前に突きつけられたような気がして。グッと唇を噛んで俯く吉村に、母はグラスを差し出した。

「まぁ、今日はお父さんとゆっくり話でもしてください。ね?」
「せや。飲もうやないか、吉村君」

こうして、父親同士の絆は深められていく。ここに居ない晴人がそれを知るのは、何年も後のことだ。