Secret Lover's Night 【連載版】

父が戻ったのは、それから30分も経たない後のことだった。再び時の満ちた獅子脅しみたく深々と頭を下げる吉村を見て、智人は「まぁ…悪い人じゃない」と改めて思う。

「ちーちゃんは?」
「寝とる。親父待っとったみたいやし、起こしてやれば?」
「そうか、そうか」

智人の言葉に、父は何やら嬉しそうで。自分の相手もそこそこに和室へと足を進めるものだから、吉村は戸惑いを隠せなかった。そんな吉村に、呆れたようにふぅっと大きく息を吐いて智人は言った。

「親父、嬉しいみたいですよ」
「え?」
「俺らは三人ともばぁちゃん子やったから、親父もおかんも千彩が懐いてくれるんが嬉しいみたいです」
「あぁ…そりゃわかる気がします」

ボスに懐き、晴人に甘え…としている千彩を見ていると、父親としては寂しくて。晴人と千彩が結婚し、生まれてきた孫を自分にべったりになるくらい目一杯可愛がりたい!と、期待に満ちているのも事実だ。

「俺も、妹ができたみたいです」

視線を外しながら照れ隠しをする智人は、晴人のそんな表情とよく似ていて。さすが兄弟だ…と思いながら、吉村は改めて智人にお礼を述べた。

「トモさん、ホンマにありがとうございます」
「いや、いいっすよ。俺が自分で決めたんですから」
「せやけど言わしてください。千彩を助けてくれてありがとうございます」

俺が助けてやる。と、初めて会った日に美奈にそう約束した。そして、「この子は一生俺が守る」と空に上り行く美奈にそう誓った。

破ってしまった。果たせなかった。と後悔し続けた数日。

けれど、三木家に来て智人の話を聞いていると、それほど自分を追い込むこともないのではないか?とも思えてきた。これからは共に助けてくれる人達がいる。そう思うだけで、吉村の心は救われたのだ。

「吉村君、今夜は泊って行くやろ?」
「え?さすがにそこまでご迷惑かけるわけには…」

返事を渋る吉村に、晴人とそっくりな顔をした母がクスクスと笑う。

「さっきも言うたでしょ?もう皆家族なんやから、遠慮は無しよ」
「せやかて…」
「久し振りなんやから付き合わんか」

寝ぼけ眼でベタリと張り付く千彩の頭を撫でながら笑う父に、吉村は「ほんなら…」と言いながら土産に買ってきた焼酎を掲げて見せた。