智人に千彩に悠真、関西の三人が映画館を出た頃には、もう夕暮れ時になっていた。
茜色に染まる空をふと見上げ、千彩は寂しげに後ろに伸びる三人分の影を視線で追った。
「夕方公園に行ったらね、皆ママが迎えに来るの」
これはチャンスだ。と、聞き返しかけた悠真を下がらせ、智人は千彩の手を取った。
「公園、よぉ行ってたんか?」
「ううん。ママとおにーさまがケンカした時にね、行ってた」
「そっか」
「ちさを迎えに来るんはいっつもおにーさまで、ママは一回も迎えに来てくれなかった」
しゅんと俯く千彩の頭を撫で、智人は優しげな声音で語る。
「俺も迎えに来てもろたことないなぁ。いっつもお兄やったわ」
「ママ、お家におったのに?」
「俺が小さい時は働いてたんや。せやから、晩メシはいっつもお姉とお兄と俺の三人で食ってた」
「ちさはね、ママと一緒に食べたよ。ママがお弁当買ってきてくれるの。おはしが上手に使えるねって、おにーさまが褒めてくれた」
「おぉ、せやな。お前箸使うん上手いな」
少しずつではあるけれど、千彩は昔のことを話してくれる。
それをゆっくりと聞いてやることが大切だと医師に言われ、その役目は自分が担うべきなのだろうと智人は考えた。仕事が忙しい晴人では、到底そんなことは出来ない。
「ママ、どうして迎えに来てくれなかったんやろ」
「んー?」
「ちさのこと嫌いやったんかな?」
「そんなことないやろ」
「でもママ、ちさは連れて行ってくれなかった。ちーちゃんは一緒に行けないって言われた。ちさも…ママと一緒が良かった」
なるほどな。と、智人はそこで漸く合点がいく。
あのバスルームでのパニック状態は、傍で見ていたショックと言うよりも、自分が一緒に行けなかった、行かせてもらえなかったと言うショックが強かったのだ。
千彩らしいと言えば千彩らしい。何故?どうして?と、未だにそれが解決していないのだろう。
「なぁ、千彩」
俯いたまま歩みを止めた千彩を覗き込み、智人は腰を屈めて向き合った。
茜色に染まる空をふと見上げ、千彩は寂しげに後ろに伸びる三人分の影を視線で追った。
「夕方公園に行ったらね、皆ママが迎えに来るの」
これはチャンスだ。と、聞き返しかけた悠真を下がらせ、智人は千彩の手を取った。
「公園、よぉ行ってたんか?」
「ううん。ママとおにーさまがケンカした時にね、行ってた」
「そっか」
「ちさを迎えに来るんはいっつもおにーさまで、ママは一回も迎えに来てくれなかった」
しゅんと俯く千彩の頭を撫で、智人は優しげな声音で語る。
「俺も迎えに来てもろたことないなぁ。いっつもお兄やったわ」
「ママ、お家におったのに?」
「俺が小さい時は働いてたんや。せやから、晩メシはいっつもお姉とお兄と俺の三人で食ってた」
「ちさはね、ママと一緒に食べたよ。ママがお弁当買ってきてくれるの。おはしが上手に使えるねって、おにーさまが褒めてくれた」
「おぉ、せやな。お前箸使うん上手いな」
少しずつではあるけれど、千彩は昔のことを話してくれる。
それをゆっくりと聞いてやることが大切だと医師に言われ、その役目は自分が担うべきなのだろうと智人は考えた。仕事が忙しい晴人では、到底そんなことは出来ない。
「ママ、どうして迎えに来てくれなかったんやろ」
「んー?」
「ちさのこと嫌いやったんかな?」
「そんなことないやろ」
「でもママ、ちさは連れて行ってくれなかった。ちーちゃんは一緒に行けないって言われた。ちさも…ママと一緒が良かった」
なるほどな。と、智人はそこで漸く合点がいく。
あのバスルームでのパニック状態は、傍で見ていたショックと言うよりも、自分が一緒に行けなかった、行かせてもらえなかったと言うショックが強かったのだ。
千彩らしいと言えば千彩らしい。何故?どうして?と、未だにそれが解決していないのだろう。
「なぁ、千彩」
俯いたまま歩みを止めた千彩を覗き込み、智人は腰を屈めて向き合った。

