Secret Lover's Night 【連載版】

「智は頭の悪い奴やない。それはお前も知ってるやろ」
「おぉ…」

三木家の三人は、誰にしても頭脳明晰、スポーツ万能で。中でも一番抜きん出ているのは晴人なのだけれど、姉の有紀にしても弟の智人にしても、恵介では到底追い付けないような頭の回転速度をしていた。

「何も考えんと感情論で動くような奴やない」
「…せやな」

千彩のこととなると冷静さを保てない晴人とは違い、智人は一歩引いて見ている。それはわかるのだけれど、電話口で聞いた晴人の涙声が恵介の首を縦には振らせなかった。

「智人かてバンドの練習あるやん。今あいつら売れてんねやろ?忙しいはずやで」
「でも、あっちにはおとんとおかん、それから有紀がおる。それに、吉村さんがおる」

こっちに連れてくれば、モデルをやらせない限りは四六時中自分達の手元に置くことは出来ない。家で独り留守番をする時間を作るよりは、実家で母親や姉と一緒に過ごさせる方が千彩の寂しさはまだマシだろう。そんな思いが晴人の中にはある。

「待とうや。千彩が落ち着くまで」

それがいつまでだかはわからない。落ち着く保障も無い。けれど、そうして呑み込むしか無いのだ。と、まだ何か言いたげな恵介を何とか説得し、晴人は携帯を開いた。

「ちぃに電話するわ。何も言わんとこっち帰って来てもうたから」

コクリと頷く三人は、気を利かせて部屋を出るのかと思えばそうでもなくて。やはり気になって仕方がないのだな。と、晴人は苦笑いのまま千彩に持たせている携帯をコールした。

ところが、いくらコールをしても千彩は電話に出なくて。渋々智人や悠真の携帯を鳴らすも、誰も出るどころかかけ直してくる気配すらなかった。

「何や、あいつら。揃いも揃って」

深いため息を吐く晴人に、何かを考え込んでいる素振りを見せていたマリがポンッと一拍手を叩いて長い髪を掻き上げた。