「ちーちゃん、美味しい?」
「うん」
「良かったな、晴人にーちゃん来てくれて」
「…うん」
やはり会いたかったのだろう。晴人の名を聞いた途端、千彩はしゅんと肩を落としてしまって。晴人も晴人で相当堪えていたみたいだから、そんな二人を引き離すのはあまりにも酷ではないだろうか…と、悠真には智人の考えが納得出来ないままだった。
「ちーちゃん、晴人にーちゃんに会いたい?」
「…ううん」
「え?」
「はる、お仕事忙しいから。はるがいないと、けーちゃんもメーシーも困るから」
「…そっか」
並べられた名は、おそらく晴人の仲間の名だろう。売れっ子の晴人のことだ。いなければ仲間が困る。それは尤もな意見なのだけれど。
「晴人にーちゃんのとこ帰りたい?それやったら、俺が頼んだるで?」
「ううん。いい」
「でも…」
「おにーさまともはるとも約束したし。ちさのお誕生日が来たらはるのとこ帰れるから、それまでちゃんと約束守って、はると一緒に「しあわせ」守るの」
こっちへ戻ってくる前に、晴人と約束したのだ。一緒に幸せを守ろう、と。千彩の決意は堅い。
「そっか…そやな。ちーちゃんは凄いな」
「ちさが?なんで?」
「ちーちゃんは大人や。俺なんかよりもずっと」
まだ子供だから、子供なんだと言われ続けてきた千彩には、「大人」という言葉が何だかとてつもない褒め言葉のように聞こえて。ふふっと照れくさそうに笑い、苦笑いをする悠真に擦り寄った。
「ちさ、大人」
「せやな」
「帰ったら、はるがびっくりするね。ちぃ凄いな!って言ってくれるね」
「うん。言うてくれるで」
無邪気な千彩の笑顔に、悠真は胸の奥がズキンと痛んだ。
「ちーさー、プリン食べ終わったんやったら手伝うてー」
「はーい!」
キッチンから呼ぶ智人の声に、千彩は元気良く返事をして立ち上がる。そして、情けない表情をしたままの悠真の頬を突いて笑った。
「ゆーま、ちさもお仕事してくる」
「仕事?」
「お手伝いは、ちさのお仕事。おにーさまがお役目くれたんだよ」
「お兄様?」
「おにーさまはね、ちさのママの大好きな人。ちさも大好きな人」
父親のことだろうか…と思い、そこで思考を改めた。千彩に両親はいない。育てたのは、赤の他人。智人がそう言っていたことを思い出したのだ。
「そっか。じゃあ頑張って」
「うん!」
思い出したとて、それを口に出せるはずがない。パジャマ姿のままキッチンへ急ぐ千彩を見送り、悠真は「どうなんねやろ…」と深いため息を吐いた。
「うん」
「良かったな、晴人にーちゃん来てくれて」
「…うん」
やはり会いたかったのだろう。晴人の名を聞いた途端、千彩はしゅんと肩を落としてしまって。晴人も晴人で相当堪えていたみたいだから、そんな二人を引き離すのはあまりにも酷ではないだろうか…と、悠真には智人の考えが納得出来ないままだった。
「ちーちゃん、晴人にーちゃんに会いたい?」
「…ううん」
「え?」
「はる、お仕事忙しいから。はるがいないと、けーちゃんもメーシーも困るから」
「…そっか」
並べられた名は、おそらく晴人の仲間の名だろう。売れっ子の晴人のことだ。いなければ仲間が困る。それは尤もな意見なのだけれど。
「晴人にーちゃんのとこ帰りたい?それやったら、俺が頼んだるで?」
「ううん。いい」
「でも…」
「おにーさまともはるとも約束したし。ちさのお誕生日が来たらはるのとこ帰れるから、それまでちゃんと約束守って、はると一緒に「しあわせ」守るの」
こっちへ戻ってくる前に、晴人と約束したのだ。一緒に幸せを守ろう、と。千彩の決意は堅い。
「そっか…そやな。ちーちゃんは凄いな」
「ちさが?なんで?」
「ちーちゃんは大人や。俺なんかよりもずっと」
まだ子供だから、子供なんだと言われ続けてきた千彩には、「大人」という言葉が何だかとてつもない褒め言葉のように聞こえて。ふふっと照れくさそうに笑い、苦笑いをする悠真に擦り寄った。
「ちさ、大人」
「せやな」
「帰ったら、はるがびっくりするね。ちぃ凄いな!って言ってくれるね」
「うん。言うてくれるで」
無邪気な千彩の笑顔に、悠真は胸の奥がズキンと痛んだ。
「ちーさー、プリン食べ終わったんやったら手伝うてー」
「はーい!」
キッチンから呼ぶ智人の声に、千彩は元気良く返事をして立ち上がる。そして、情けない表情をしたままの悠真の頬を突いて笑った。
「ゆーま、ちさもお仕事してくる」
「仕事?」
「お手伝いは、ちさのお仕事。おにーさまがお役目くれたんだよ」
「お兄様?」
「おにーさまはね、ちさのママの大好きな人。ちさも大好きな人」
父親のことだろうか…と思い、そこで思考を改めた。千彩に両親はいない。育てたのは、赤の他人。智人がそう言っていたことを思い出したのだ。
「そっか。じゃあ頑張って」
「うん!」
思い出したとて、それを口に出せるはずがない。パジャマ姿のままキッチンへ急ぐ千彩を見送り、悠真は「どうなんねやろ…」と深いため息を吐いた。

