「ちょっと今…」
『風呂か?』
「いや、風呂は風呂なんやけど…」
『何やねん、それ。おるんやったら代わってや。恵介がうっさいねん』
「あぁ、うん」
ぼんやりと空を眺める千彩に携帯を差し出しても、勿論反応は無くて。傷の手当をしながら再度携帯を肩に挟み、智人は固まったままの千彩の体をソファに倒した。
「寝とけ。俺も悠真もここにおるから」
そう声を掛けたとて、返事があるはずもなくて。戻ってきた悠真に千彩を任せ、智人はダイニングチェアへと腰を落ち着けた。
「なぁ、お兄」
『ん?』
「千彩の母親ってどないしてるん?」
『母親?亡くなってるけど』
「風呂場で自殺…したんか?」
智人の言葉に、晴人は言葉を失った。
亡くなったという事実のみで、他の事は吉村から聞かされていない。吉村も千彩もそれについては口を重くしてしまうものだから、深く追究することも憚られて。酒に溺れていたと言っていたから、肝臓でも悪くしたのだろう。と、勝手にそう判断していた。
『何でや?』
「さっき、ちょっとあって」
『また独りにしたんか』
「ちゃう。一緒におったんや」
『ほな何でや。何があってん』
千彩のこととなると、晴人は冷静ではいられない。東京ならば車で帰ることは出来るけれど、北海道にいる今はフライト時間が終わってしまえば帰る手立てがない。ここは詳しく事情を…と、晴人も電話口で腰を落ち着けた。
「皿、割ったんや。それで千彩が手ぇ怪我してもうて」
『怪我?酷いんか?』
「いや、それは今手当したから大丈夫」
『ほんで?』
「ほんで…」
詳しく聞かせてほしい。そんな晴人の思いはよくわかるのだけれど、どうにも思い出すと胸が痛む。重くなる口を叱咤し、智人は大きく息を吸い込んだ。
「血ぃ見た途端、風呂場に走って行ったんや」
『風呂場…』
「ママって叫びながら、浴槽の底引っ掻いてた」
千彩が何を思ってそうしたのか、智人にはわからない。けれど、それが自分の見た事実だ。
『ちぃ、どないしてるんや』
「ソファに寝かしてる。傍に悠真がおる」
『泣いてんのか?』
「いや、ボーっと天井見てる」
そう言えば泣かなかった。と、今になって気付く。
『風呂か?』
「いや、風呂は風呂なんやけど…」
『何やねん、それ。おるんやったら代わってや。恵介がうっさいねん』
「あぁ、うん」
ぼんやりと空を眺める千彩に携帯を差し出しても、勿論反応は無くて。傷の手当をしながら再度携帯を肩に挟み、智人は固まったままの千彩の体をソファに倒した。
「寝とけ。俺も悠真もここにおるから」
そう声を掛けたとて、返事があるはずもなくて。戻ってきた悠真に千彩を任せ、智人はダイニングチェアへと腰を落ち着けた。
「なぁ、お兄」
『ん?』
「千彩の母親ってどないしてるん?」
『母親?亡くなってるけど』
「風呂場で自殺…したんか?」
智人の言葉に、晴人は言葉を失った。
亡くなったという事実のみで、他の事は吉村から聞かされていない。吉村も千彩もそれについては口を重くしてしまうものだから、深く追究することも憚られて。酒に溺れていたと言っていたから、肝臓でも悪くしたのだろう。と、勝手にそう判断していた。
『何でや?』
「さっき、ちょっとあって」
『また独りにしたんか』
「ちゃう。一緒におったんや」
『ほな何でや。何があってん』
千彩のこととなると、晴人は冷静ではいられない。東京ならば車で帰ることは出来るけれど、北海道にいる今はフライト時間が終わってしまえば帰る手立てがない。ここは詳しく事情を…と、晴人も電話口で腰を落ち着けた。
「皿、割ったんや。それで千彩が手ぇ怪我してもうて」
『怪我?酷いんか?』
「いや、それは今手当したから大丈夫」
『ほんで?』
「ほんで…」
詳しく聞かせてほしい。そんな晴人の思いはよくわかるのだけれど、どうにも思い出すと胸が痛む。重くなる口を叱咤し、智人は大きく息を吸い込んだ。
「血ぃ見た途端、風呂場に走って行ったんや」
『風呂場…』
「ママって叫びながら、浴槽の底引っ掻いてた」
千彩が何を思ってそうしたのか、智人にはわからない。けれど、それが自分の見た事実だ。
『ちぃ、どないしてるんや』
「ソファに寝かしてる。傍に悠真がおる」
『泣いてんのか?』
「いや、ボーっと天井見てる」
そう言えば泣かなかった。と、今になって気付く。

