Secret Lover's Night 【連載版】

お腹が空いたと訴えた千彩にオムライスを作ってやり、男二人は缶ビールを片手にソファに身を沈めた。

「何か…疲れたな」
「おぉ。でもまぁ、にーちゃん帰って来る言うてたし」
「お前、ホンマお兄のこと好きやな」

昔からそうだった。自分に用事があると言うよりも、晴人に会いに来る。三人の妹がいても上には兄姉がいない悠真は、晴人を本当の兄のように慕っている。

そんな悠真だからこそ、この家での唯一の反対勢力である自分の味方になってくれると智人は思っていたのだけれど。

「にーちゃん、あの子のこと守りたいんやな」
「…やろうな」
「何か…あったんかな、あの子」
「…やろうな」

どう頑張っても、味方になどなってくれそうもない。それどころか、完全に千彩を受け入れる態勢でいる。それにはぁ…っとため息を吐き、智人は空いた食器を片付けるために起き上がり、席を立ちかけている千彩の後ろから手を伸ばした。

「ひ…っ」
「え?」

驚いて身を竦めた千彩の手から、ガシャンッと食器が滑り落ちる。それを慌てて拾い集めようとした千彩の手に、じわりと赤が滲んだ。

「あほかっ!触んな!」
「あっ…」
「手ぇ貸せ。おい、千彩?」

自分の手をじっと見つめながら「あっ…あっ…」と言葉にならない声を押し出す千彩は、何かに怯えるようにガタガタと身を震わせていて。智人の声が耳に入っていないその様子に、悠真がひょいっとソファを乗り越えて千彩の手首を掴んだ。

「ちーちゃん、手当しよ」
「あっ…あっ…ママ…ママっ!」
「おいっ!千彩っ!」

叫ぶと同時に、千彩は悠真の手を振り払ってリビングを飛び出した。慌てて後を追って辿り着いたのは、誰もいないバスルームだった。

「ママっ!ママーっ!」

バスルームに飛び込んだ千彩は、真っ暗な中で叫び続けている。ゆっくりと顔を見合わせ、智人は恐る恐る電気のスイッチに手を伸ばした。