Secret Lover's Night 【連載版】

『おったか!?』
「おっ…た」
『良かったぁ…無事か?』
「うん」
『そっか。良かった。メーシー、マリ、見つかったわ。あれ?恵介は?』
「お兄…」
『恵介!ちぃ見つかったから帰らんでええぞ!泣くなて。大丈夫やから』

電話の向こう側の晴人は、何やら忙しそうで。携帯から洩れてくる晴人の声に顔を上げた千彩に、そっとそれを譲って智人は唇を噛んだ。

「は…る?」
『ちぃ…どこ行っとったん?皆心配したんやで』
「ごめん…なさい」
『独りで寂しかったな。智は俺が怒ったるからな』
「ううん。ちさが悪いの」

千彩の言葉に、智人は繋いでいた手にギュッと込めた。

家からさほど離れていない場所にいた。けれど、肌寒い秋の夜に、たった一人で。それだけで智人の胸は痛む。加えて晴人から告げられた言葉に、千彩の言葉。いい大人が…と思うものの、悠真が開けた扉の向こうに千彩を押しこみ、頬を伝った涙がバレないようにゴシゴシと袖口でそれを拭った。

「はる、ともと怒らない?」
『ん?』
「怒らないって約束して」

携帯を片手に玄関でスニーカーを脱ぐ千彩からそれを奪い取り、智人はフルフルと首を振った。

「俺が悪い」
「ちさが悪いよ?出て行ったの、ちさやもん」
「独りにした俺が悪い」

情けなく眉尻を下げて尚も否定しようとする千彩をリビングへと促し、智人は視線だけで悠真に後を託した。それに頷いた悠真は、「ホットミルク飲む?」とにっこりと微笑み、千彩の背を押した。

「お兄…ごめん」
『俺、独りにすんなって言うたよな?』
「…ごめん」

先程までより幾分か落ち着いた晴人の声だけれど、怒っていることに変わりはない。グッと歯を食いしばり謝罪の言葉を紡ぐだけで智人は精一杯だった。

『千彩は、普通の17歳と違う。それは一緒におってわかるやろ?』
「…うん」
『事情は帰ったら説明したる言うたやろ?』
「…うん」
『もう絶対独りにすんな』
「わかった。ごめん」
『一人で無理なんやったら、悠真呼べ』
「もう…おる」
『…わかった。帰ったら二人纏めて説教やからな』

シンと静まり返ったリビングに、受話器越しの晴人の低い声がやけに響いて。それに肩を竦め、悠真は出来上がったホットミルクを千彩に差し出した。