Secret Lover's Night 【連載版】

叱られる…とギュッと身を縮めた千彩の体を、肩で息をした智人がギュッと抱き締めた。


「ごめん、千彩。独りにしてごめんな」


涙声で謝る智人の体は、小刻みに震えていて。そっとその背中に手を回し、千彩は小さな声を押し出した。

「はるのとこ…帰りたい」
「ごめん。俺が悪かった」
「はるぅ…」
「ごめん。ごめん、千彩」

涙声のまま謝り続ける智人の心の中には、罪悪感と安堵感が入り混じっていて。取り敢えず戻ろう?と悠真に促され、ギュッと千彩の手を握って足を進めた。


一時間以上経っても戻らない千彩をさすがに心配し始めた頃、ちょうど仕事を終えて食事の前だという晴人から電話がかかってきた。

『ちぃは?』
「さぁ」
『は?』
「リビングに置いてたら、どっか行ってもた」
『あほかっ!独りにすんな言うたやろがっ!』

あまりの晴人の慌てように、「ガキじゃあるまいし」と鼻で笑った智人。事の重大さをわかっていなかったのは、隣で聞き耳を立てる悠真も同じだった。

『探せ』
「帰って来るやろ」
『…ええわ。今からそっち帰る』
「はぁ?北海道で撮影やて言うてたやん」
『そんなもんどうでもええねん!』

晴人のあまりに真剣な声に、智人と悠真は顔を見合せて思った。これは…本格的にヤバいかもしれない、と。

『メーシー、俺帰るわ。ちぃがおらんなってん。いや、弟に任せてたんやけど、放ったらかしにしとったみたいで…』

受話器の向こう側からは、晴人が仲間だろう人物に千彩の状況を説明する声が聞こえてくる。そして、焦る男の声と怒鳴る女の声、「俺も帰ってちーちゃん探す!」と叫ぶ恵介の声が聞こえた。

それだけでも罪悪感が生まれるというのに、いつになく低く怒気を含んだ晴人の声が、智人と悠真の胸を更に締め付けた。


『俺は、お前やから信用して任せたんやぞ。もしあいつに何かあったら、兄弟の縁切るからな。二度とそっちにも帰らへん。覚えとけ』


さすがにそうまで言われてしまえば、智人も悠真も焦るというもので。取り敢えず探すからと言い、電話を切って30分。晴人はもう空港へ到着してしまっただろうか…と、智人は重い指を何とか動かして電話をかけた。