Secret Lover's Night 【連載版】

キョロキョロと視線を泳がせる悠真をベッドに腰掛けさせ、智人はふぅっと大きく息を吐く。

自分とて初めて千彩を「恋人だ」と紹介された日は、驚きで言葉が出なかった。しかも「結婚を前提とした恋人」で、千彩の年齢が17歳だときたものだから、あまりのショックに泣きたくなった。

悠真の今の状態は致し方ない。と、諦めもつく。

「なー、悠真」

返事が無いのはわかっている。けれど、どこか胸の内を曝け出せる場所が欲しかった。

「お兄はさぁ、何でも出来るやん?カッコええし、頭ええし、有名やし」

憧れの兄である晴人。幼い頃からその背を追い、いつか追い越してやる!と夢を追い続けてきた。

「もっとええ女おるはずやねん。でも、アイツと結婚するんやと。納得いかんわー」

ガシガシと頭を掻きながら、智人はガックリと項垂れた。

智人とて、千彩を嫌っているわけではない。何度か泊まりに来たけれど、その度にプールや映画や買い物に連れて行き、妹みたいに可愛がってきたつもりでいる。そう、妹みたいに。

「ガキやん、ただの。よぉわからんわ」

そこまで吐き出してしまうと、何だか泣けてくる。俯いたままグスッと鼻を啜る智人は、いつまでも兄が大好きな弟だった。

「まぁ…晴人にーちゃんが選んだ女やし」

ポンポンと智人の頭を撫で、漸く正気を取り戻した悠真が笑った。

「いくつなん?あの人」
「じゅう…なな」
「へぇ…17か。はぁっ!?」
「やろ!?そうなるやんな!?」

再び目を見開いた悠真に、智人は縋り付くような眼差しを向ける。

どっちの意味で「はぁっ!?」なのかはわからない。この際、どっちの意味でも同意してくれればそれでいい。両手を広げて受け入れた母と姉に、戸惑いながらも受け入れる姿勢でいる父。

そんな家族の中で唯一の反対勢力の智人は、誰でも良いから味方が欲しかった。