「はるー、いつ帰ってくる?」
『せやなぁ、明後日かな』
「今日は?明日は?」
『今仕事で遠いとこおるんやわ。せやから、今日も明日も無理やわ。ごめんな』
「うー…」
途端に表情を曇らせた千彩に、智人の背中に冷たいものが伝う。これ以上泣かれたら堪らない。何でもいいからどうにかしてくれ!と、縋るような思いで千彩の耳に当たる携帯を見つめた。
『ちぃ、泣いとったんやって?どないしたん?』
「うーん…ともとの言ったこと、ちさわからへんかった」
『そっか。ほな教えてもらい?』
「うん。でも…」
『大丈夫や。ちょと智に代わってくれるか?』
「…うん」
渋々携帯を差し出され、受け取って良いものか迷う。受け取ったが最後、電話口の兄にとてつもない説教をくらいそうで。けれど、不満げに「んっ」と差し出す千彩に押し返すわけにもいかず、智人は渋々携帯を受け取って耳に当てた。
「…はい」
『怒ったんか?』
「別に怒ってへんわ」
嘘はついていない。と、そこは自信を持って言える。怒ってはいない。呆れたのだ、と。
「だってコイツ、ゲーテとか詩人とか「何それ?」みたいに言うんやで」
『何でそんな話になってん。難しい話すんなや』
「そない難しいことでもあらへんやろ。17やろ?お兄もお姉もおかんも、コイツに対する態度異常やで。何なん?コイツほんまは幼稚園児なん?よぉわからんわ」
『…せやな』
ふぅっと大きなため息を吐く晴人に、智人は更なる苛立ちを覚える。何かあるなら言え。そう言おうとした矢先、幾分か優しくなった晴人の声が受話器越しに聞こえてきた。
『千彩な、ちゃんと学校行ってへんのや』
「は?」
『幼稚園、小学校、中学校…勿論、高校もや。せやからわからんで当然なんや』
「いや、意味がわからへんのやけど」
突然そんなことを言われても、どう呑みこんだら良いものかわからない。戸惑う智人に、晴人は言葉を続けた。
『色々事情があるんや。詳しく知りたいんやったら、帰った時に説明したる』
「おっ…おぉ」
『せやから、「子供扱い」で正解なんや。ちゃんと話せるようになってから、まだそんなに経ってへん。わからんことは聞きよるから、面倒やろうけど教えたってくれへんか?』
「まぁ…それやったら。てか、先に言えよな。俺一人酷い奴みたいやん」
『んー、悪かった。面倒かけて悪いけど、独りにさせんように頼むわ。明後日、なるべく急ぎで帰るから』
「わかった」
チラリと千彩を見遣ると、チラチラと携帯を見ながらうずうずとしていて。「ほれっ」と渡してやると、一気に表情が緩んだ。
『せやなぁ、明後日かな』
「今日は?明日は?」
『今仕事で遠いとこおるんやわ。せやから、今日も明日も無理やわ。ごめんな』
「うー…」
途端に表情を曇らせた千彩に、智人の背中に冷たいものが伝う。これ以上泣かれたら堪らない。何でもいいからどうにかしてくれ!と、縋るような思いで千彩の耳に当たる携帯を見つめた。
『ちぃ、泣いとったんやって?どないしたん?』
「うーん…ともとの言ったこと、ちさわからへんかった」
『そっか。ほな教えてもらい?』
「うん。でも…」
『大丈夫や。ちょと智に代わってくれるか?』
「…うん」
渋々携帯を差し出され、受け取って良いものか迷う。受け取ったが最後、電話口の兄にとてつもない説教をくらいそうで。けれど、不満げに「んっ」と差し出す千彩に押し返すわけにもいかず、智人は渋々携帯を受け取って耳に当てた。
「…はい」
『怒ったんか?』
「別に怒ってへんわ」
嘘はついていない。と、そこは自信を持って言える。怒ってはいない。呆れたのだ、と。
「だってコイツ、ゲーテとか詩人とか「何それ?」みたいに言うんやで」
『何でそんな話になってん。難しい話すんなや』
「そない難しいことでもあらへんやろ。17やろ?お兄もお姉もおかんも、コイツに対する態度異常やで。何なん?コイツほんまは幼稚園児なん?よぉわからんわ」
『…せやな』
ふぅっと大きなため息を吐く晴人に、智人は更なる苛立ちを覚える。何かあるなら言え。そう言おうとした矢先、幾分か優しくなった晴人の声が受話器越しに聞こえてきた。
『千彩な、ちゃんと学校行ってへんのや』
「は?」
『幼稚園、小学校、中学校…勿論、高校もや。せやからわからんで当然なんや』
「いや、意味がわからへんのやけど」
突然そんなことを言われても、どう呑みこんだら良いものかわからない。戸惑う智人に、晴人は言葉を続けた。
『色々事情があるんや。詳しく知りたいんやったら、帰った時に説明したる』
「おっ…おぉ」
『せやから、「子供扱い」で正解なんや。ちゃんと話せるようになってから、まだそんなに経ってへん。わからんことは聞きよるから、面倒やろうけど教えたってくれへんか?』
「まぁ…それやったら。てか、先に言えよな。俺一人酷い奴みたいやん」
『んー、悪かった。面倒かけて悪いけど、独りにさせんように頼むわ。明後日、なるべく急ぎで帰るから』
「わかった」
チラリと千彩を見遣ると、チラチラと携帯を見ながらうずうずとしていて。「ほれっ」と渡してやると、一気に表情が緩んだ。

