Secret Lover's Night 【連載版】

ふぅっと息を吐くと、チラリと腕時計を見遣る。撮影の時間が迫っていた。

「すみません、吉村さん。僕ちょっと仕事が…」
「あっ!すんません、長い間居座ってもうて。ほなちー坊行こか?」
「どこに?」
「二、三日ホテル泊まって、それからあっち帰ろか」
「ちさ、はると帰る。お仕事終わるの待ってる」
「まだ言うか。ご迷惑やろ?言うてるやん。ハルさんには仕事もあるし、彼女さんもいてはるやろし。ちー坊がおったら邪魔やろ?」
「カノジョさんって?」
「恋人や、恋人。一番愛してる人」
「はるの愛してる人?」
「せや。せやからちー坊がおったらあかんやろ?彼女さん怒ってしまうで?」

うぅんと首を傾げた千彩が、ちょいっとシャツの裾を引く。

「前に来たおねーさん?」
「ん?あれはもうちゃうで。あれは、彼女やった人」
「ちさの…せい?」

そう言って、不安げに見つめるものだから。向き直って両手を広げると、いつものように足の間に収まり、千彩は首元に擦り寄る。それが愛おしくて。

「ちぃ?」
「ん?」
「俺仕事せなあかんから、ちょっとお兄様と一緒におってくれる?」
「…イヤ」
「でもなー、モデルさん待ってるんやわ」
「んー…」

千彩だけならば、ここに置いておくことは可能だ。たとえ退屈したとしても、手の空いたスタッフが何とかしてくれるだろうと思う。特に、恵介やメーシーみたいな構いたがりが。

けれど、ここには吉村も居て。さすがに何時間も待たせるのは申し訳ない。と、千彩を説得する言葉を探す。

「仕事終わるまで。な?」
「ちさここに居たい。はるとおる」
「こわーいお姉さんおるで?せやから留守番しとったんちゃうんか?」
「う…っ」
「終わったら迎えに行くから。な?」
「何時?何時に迎えに来る?」
「せやなぁ…ご飯の時間くらい」
「ほんまに?」
「ほんまに。約束する」
「はる…ちさほかさない?」
「おぉ。絶対」
「…わかった」

もう少しごねると思ったけれど、思ったよりも早く千彩は納得してくれて。ちゅっと頬に口づけて離れさせると、何とも複雑そうな視線が寄越される。それもそうか…と、改めて吉村に向き直った。

「すみません、吉村さん。ちょっと撮影の時間が迫ってますんで、仕事が終わり次第改めて、でもよろしいですか?」
「あっ…はい。それは構いませんが…」
「ホテルとあと…携帯番号教えてもらえますか?終わり次第連絡して向います」
「じゃあこれ…」

乱雑な字で数字の並べられた紙を受け取り、不安げに見つめる千彩の頭を撫でる。

「迎えに行くから。絶対」
「…うん」
「待っててな?」
「うん。けーちゃんも来る?」
「恵介も?」
「めーしーも?」
「メーシーもか…おぉ、わかった」

余分な者が二人ほど付きますが。と付け足し、吉村に手を引かれて名残惜しそうに去って行く千彩の背中を見送った。