静かな部屋に、チクタクと時計が時を刻む音だけが響く。
準備のために先にスタジオに行ってしまったメーシーが抜け、当事者三人だけの空間。あまりの重苦しさに耐え兼ね、ちょこんと隣に座る千彩の髪へと手を伸ばした。
「はるー?」
「ん?」
「ちさがはるの家におったら迷惑?」
「俺、そんなこと言うた?」
「でも、おにーさまはさっきそう言った」
しゅんと肩を落とし、千彩は声をくぐもらせる。また泣き出すのではないか…と、晴人は内心気が気ではない。
今からでは、撮影が迫っているため宥める時間が十分に取れない。きちんと宥めないままでこの甘えん坊が離してくれるはずがないことは、自分が一番よく知っている。
そう思い、ふと思考を止める。
いや、違う。
自分はこの人の代わりだったのではないか?
だからあんなにも甘えてきたのではないか?
止めたはずの思考は、コロコロと悪い方へと転がり落ちた。
「ちー坊、何で俺と帰るんが嫌なんや?」
「だって…おにーさまお仕事で帰って来ない日の方が多いもん。はるは毎日帰って来る」
「お仕事な、もう東京でせんでええようなったんや。いっぱいお仕事したから、前よりええ家住めるで?ボスも逝ってもうたし、もうあっち帰ろうや」
「ボス…」
グスリと鼻を啜り、千彩が俯く。頭を撫でてやることくらいしか出来ない晴人は、じっと黙ってその横顔を見つめていた。
「ボス…ちさボスのこと大好きやった」
「せやな。いっぱい遊んでもろたもんな」
「うん。ボス、ちさのお友達やって言ってくれた。ちさは…お友達いないでしょ?だからボスがお友達になってくれるって」
「せやな。ちー坊には大事なお友達やったな」
ちさにはおらんよ、どっちも。
ふとそんな言葉が蘇る。この少女は、親も友達も、本当に何も持っていなかったと改めて知る。
準備のために先にスタジオに行ってしまったメーシーが抜け、当事者三人だけの空間。あまりの重苦しさに耐え兼ね、ちょこんと隣に座る千彩の髪へと手を伸ばした。
「はるー?」
「ん?」
「ちさがはるの家におったら迷惑?」
「俺、そんなこと言うた?」
「でも、おにーさまはさっきそう言った」
しゅんと肩を落とし、千彩は声をくぐもらせる。また泣き出すのではないか…と、晴人は内心気が気ではない。
今からでは、撮影が迫っているため宥める時間が十分に取れない。きちんと宥めないままでこの甘えん坊が離してくれるはずがないことは、自分が一番よく知っている。
そう思い、ふと思考を止める。
いや、違う。
自分はこの人の代わりだったのではないか?
だからあんなにも甘えてきたのではないか?
止めたはずの思考は、コロコロと悪い方へと転がり落ちた。
「ちー坊、何で俺と帰るんが嫌なんや?」
「だって…おにーさまお仕事で帰って来ない日の方が多いもん。はるは毎日帰って来る」
「お仕事な、もう東京でせんでええようなったんや。いっぱいお仕事したから、前よりええ家住めるで?ボスも逝ってもうたし、もうあっち帰ろうや」
「ボス…」
グスリと鼻を啜り、千彩が俯く。頭を撫でてやることくらいしか出来ない晴人は、じっと黙ってその横顔を見つめていた。
「ボス…ちさボスのこと大好きやった」
「せやな。いっぱい遊んでもろたもんな」
「うん。ボス、ちさのお友達やって言ってくれた。ちさは…お友達いないでしょ?だからボスがお友達になってくれるって」
「せやな。ちー坊には大事なお友達やったな」
ちさにはおらんよ、どっちも。
ふとそんな言葉が蘇る。この少女は、親も友達も、本当に何も持っていなかったと改めて知る。

