Secret Lover's Night 【連載版】

「吉村さん、あの…」
「ははは。すんません、ハルさん。うちの娘がご迷惑かけて」
「あぁ、いや、それは…」
「おいで?ちー坊。おにーさまが抱っこしたるから。な?」
「イヤ!」
「嫌やと?そんな我が儘言うてどないすんねんな。いつの間にそんな悪い子になったんや」
「ちさ悪い子と違う!」
「おにーさまの言うこと聞かん子は悪い子やぞ。ほらっ、ハルさんにご迷惑やろ?ただでさえ一緒に住まわせてもろて迷惑かけとるんやから」

吉村が無理に引きはがそうとしても、当然千彩は一寸たりとも離れようとはしない。「おいで」「イヤ」の押し問答だ。

それを見兼ねて声を掛けたのが、第三者のメーシーで。ゆるりと笑みを携えて、千彩の肩をポンッと叩く。

「姫、ちゃんと説明しなきゃダメだよ?嫌って言うだけじゃ、姫の気持ちはお兄様に伝わらないからね?」
「きも…ち?」
「そう、気持ち。ちゃんとお兄様の話も聞いて、姫がどうして嫌なのか、お兄様に伝えてあげなきゃ。ね?」
「…うん」

その一言でぐずる千彩を落ち着かせたメーシーを、どこか他人事のようにして見ていた晴人は、「さすがだ…」と、言葉には出さずに称賛した。やはり自他共に認めるフェミニストは違う。と、思わざるを得ない。

「ちー坊、おいで?」
「なんで?」
「何で?って…ご迷惑やろ?」
「なんで?」
「ちー坊…ハルさんはおにーさまとはちゃうんやで?」
「うん、知ってる。おにーさまはおにーさま、はるははる」

コクリと頷く千彩に、吉村ははぁぁぁっと深いため息を吐く。そんな吉村の苦労が、未だ千彩を抱き抱えたままの晴人には手に取るようにわかって。苦笑いを零しつつ、サラリと千彩の長い髪を梳いた。

「ちぃ、人と話する時はちゃんと相手の方見てせんとあかんで。な?」
「んー…」
「ほな、俺がそっぽ向きながらちぃと話してたらどうや?嬉しいか?」
「…悲しい」
「やろ?お兄様もちぃがそっぽ向いてたら悲しいんちゃうか?」

「おにーさま、ごめんなさい」

きちんと向き合って謝った千彩の頭を、ヨシヨシと撫でてやる。それで再び擦り寄ろうとした千彩を緩く制し、晴人は自分の隣へと座らせた。そして、それを見て吉村も向かいの席へと就く。

これはなかなか話が進まないかもしれない…と、三人の大人の思いは同じだった。